毎週こいつ俺の家に遊びにきてないか?と今俺の後ろでVP2をしている友人Sに対して首をかしげている晶です、こんばんわ。いや、別にいいんだけどさ。電気代徴収していいのかしら、これ(マテ
とりあえず、題名のとおりまた小説です。見たくない方は以下略。
そんなわけでごーごー。前回がPart4なのに対し、今回はPart1.一番初めのお話です。
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「ああ、もう、まったく。いいか、プリーストの支援魔法が何にでも万能と思うなよ? そもそも、支援魔法というよりは神託の部類に入るんだが、これは人間が元から備えている新陳代謝を高め、壊死、または死滅した細胞を新しい細胞に変えることで擬似的に回復したように見せかけるようなもので……」
「……もういいから、シャル」
「……あぁ、もう、本当に! だから風邪などにはきかんのだよ。それを本当にわかってるのかね!」
「ん」
「……はぁ。もういいから、フィンは寝てろ。定期的にキュアぐらいはかけてやる」
フィーシャル・パスは疲れたようにそう呟くと、伸びた前髪をがしがしとかきむしりながら備えてあった椅子に座った。そのまま、あとはもう知らんとばかりに懐から分厚い聖書を取り出して読み始める。しかし、秒速一ページの速度でめくっていくその聖書の内容は頭に入っているのか。明らかに「僕は今忙しいんだ」的雰囲気をかもし出すためだけのアイテムと化してしまっている。
そんなシャルが座るその椅子の傍らには、フィンネル・ラーファがいつも通り無表情でベッドに横たわっていた。無表情で物静かな彼女のスタイルらしく、シャルがそんな態度をとっていても特に気にはしていないようだ。
しかし、そんなフィンでも病人は病人なわけで。何処からか風邪をもらってきたらしく、うっすらと頬が朱色に染まり、肌全体が少し赤みを帯びている。薄いパラディンの戦衣と、彼女の淡いクリーム色の髪にその朱色は良く映えた。
普段も神経質だが、いつも以上にシャルがかりかりしているのには理由がある。
シャルは先ほど自分で言ったとおり、己が持っている支援魔法がまったくの無駄と知っている。病気が聖魔法で治るのなら、今頃医者という医者は軒並み閉店セールの真っ最中だ。しかし、メンバー全員から「病人の治療は
医者の畑だろ」ということで押し付けられ、反論はしたものの結局押し切られてここにいるわけだ。
自分の行動を阻害され、ましてや自分の理論をまったくの感情論で否定されるという、シャルにとっては不愉快極まりない仕打ちを食らったわけで。初めは物凄く渋っていたのだが、もう諦めたのかちらちらとフィンの様子を伺いながら、しかし基本は手に持っている聖書へと視線を落としている。尤も、内容を脳みそが理解しているかと問われれば閉口せざるをえないが。
フィンはフィンで、別段この状況に何も感情は示さず、言われたとおり大人しく横になっている。
ただ、静かな沈黙と、シャルがめくる聖書の音だけが部屋に響く。他のメンバーたちは、今頃食堂のほうでわんさかと騒いでいることだろう。
シャルは、自分の分の夕飯は残っているのだろうか、そんなことをぼんやりと考えながら、ふと一つのことを思い出す。そして、気づいてしまった以上は無視することもできず、シャルは本当に面倒くさそうに、そして物憂げに、ため息をついた。
「そういえば、お前は何か食べたのか?」
「ん、特に食欲ないから」
聖書を見ながら訊ね、布団に横たわったまま答える。
返ってくる答えも予想通り。がしがしと髪の毛を掻きながら、続けた。
「病人は大体そう言う。だが、食わんと治らんだろ……何か食べろ」
「食べるものは?」
小さく訊き返された言葉に、シャルは思わず黙ってしまう。この返答も、嫌な意味で予想通りであった。
食堂で騒いでる連中の中に、床に伏したギルドメンバーのためにお粥か何かを作るような甲斐性を持ち合わせているようなヤツは残念ながら存在しない。というよりも、まともに何かを作れる人があまりいないというべきか。
そもそも、そんな甲斐性がある連中ならば、自分が無理やり看病を押し付けられることもなかっただろう。加えて、にやつかれながら押し付けたりはしないだろう。腹立たしいにもほどがある。
で、唯一、マスターが先ほどお見舞いに来たのは来たのだが、やはり来ただけで完璧に手ぶらだった。彼女に期待するほうが間違えだという気もするが。
となると、やはり僕しかいないのか。
半ば達観にも似た諦めをごっそりとため息とともに吐き出しつつ、シャルは重い腰を上げた。
「……仕方ない、僕が作ってこよう。待ってろ」
「……ん、待って、シャル」
「何だ? 何か希望でもあるのか?」
慣れない気遣いにややげっそりしながら訊ねる彼に、フィンは緩く首を振る。
そして、相変わらず感情があまり篭らない声で、とんでもないことを口にした。
「シャルって、恋したこと、ある?」
「んな!?」
コイ? あぁ、鯉か。鯉が食べたいのか。だがこの近辺に漁場は……いや、あれは淡水魚だから湖か? あぁ、どちらにせよなかったはずだ、いや、確かトードがいるところに鯉はいたか……?
「したこと、ある?」
あまりにも彼女とはそぐわない言葉が飛んできたため、思わず一瞬茫然自失としていたシャルだったが、彼女がもう一度問いかけた質問ではっと我に返り、退室しようと挙げていた腰を、再び椅子へとおろした。
そして、フィンは言葉を続けた。
「町を歩いてるときに、その話題が聞こえたの。女の子たちが、楽しそうに話してた」
「……」
その言葉に、シャルは目頭に指先を当て、まるで頭痛をこらえるように頭を振る。
いきなり看病を押し付けられ、普段なら絶対にしないような気遣いをし、ましてやいきなりそんな自分が欠片も信じていないような話題を投げかけられる。苛々も、そろそろ臨界点を突破しそうだ。自分は色恋沙汰の話なんて、したこともないというのに。
フィンよりも長い、背中を越そうかというぐらいの長さの彼の髪が、はらはらと揺れる。
そして、言葉はまるで、蛇口をひねった水道のようにとめどなくあふれ出してきた。
「恋? 恋愛の類のことを言ってるのか。くだらん、あんなのはそもそも自己満足の塊だ。自分が相手を愛することはただの生理現象、そして相手から得られる感情により自己満足に浸る。そしてそれが満たされてしまえばさようなら、それっきりだ。あんな生産性も何もない感情の類など、まったく持って下らん産物だ。あんなものに熱を上げるなど、僕には到底理解できない。理解などしたくない。まったく、あんなケツに学をつけただけで学問の一つになりあがろうとするようなモノなど、理解したくもない」
苛立ちにも似た、自分でさえ判別つかない感情に後押しされていた自分に、気づく。
一息にそこまで言って、ようやくシャルは息をついた。言い終わった後に、すっと、胸の中に蓄積した水が完全に出尽くしたことを悟る。何もない臓腑から出るものはただの空気でしかなく、今度は深いため息を漏らした。
自戒のため息だった。いや、自戒、というよりも、自嘲の色のほうが強い。
今のは少々言い過ぎた。リゼットやアリサに言うのならば、確かにこの言葉でも良かっただろう。彼女らは別段恋愛盛りというわけでもないが、女性として、女の子として、それなりに恋愛については知っているし、経験している。
けれど、相手は、フィンネル・ラーファなのだ。年齢をいくら重ねようが、その心は幼子と変わらず。
神に見捨てられて育ったが故に、ただ、空虚に年齢を重ねてしまった、パラディン。
そんなフィンのことだから、おそらく純粋な好奇心だったのだろう。心が未発達だからこそ歪に純粋で、無垢なまでに無知な彼女。
確かに自分はあんなものは妄言の類だと信じている。信仰している。あんなものに確かな理論、公式などがあるはずがない。だが、それでもイエスかノーかぐらいは答えれたのではないか。いや、どちらにしてもノーに決まってはいるのだが、それでも何かばつが悪い。
だが、フィンはシャルの心情を察してか、それとも無意識にか、
「……そう」
そういって、目を伏せた。特に残念がるわけでもなく、愛想を尽かしたわけでもなく、ただ、静かに。
それを見てシャルは更に居心地が悪くなる。何だか、人が育ててた花を、その人の目の前で踏みにじってしまったかのような、持ち主が大事にしていたティーカップを持ち主の目の前で割ってしまったような、そんな居心地の悪さ。
だから、だろうか。
「それなのに、恋って、楽しいのかな」
女の子たちは楽しそうだった、と続けたフィンの言葉に、
「楽しいんじゃないか?」
と、答えを返してしまった。
「……?」
「あ、そ、それはだな」
今までの説明とは完全に逆説に値する答えに、目を瞬いて振り向くフィン。そのまじまじとした視線に当てられ、自分ですらほぼ無意識に答えた答えに必死になってシャルは理由を探す。
全ての答えには理由、理屈が必要だ。だが、それは理由が先に、理屈が先に明らかになり、答えが証明されるのが常であり。
後につけた理由など、所詮は何の役にも立たないということを嫌というほど知っているのに。
フィーシャル・パスは必死になって理由を探した。
「さっき言ったとおり、恋愛は所詮自己満足、または自己幻覚の塊だ。それは変わらん。別に恋愛否定論者を語るわけじゃないが、少なくとも僕はそう思う」
頭をがしがしとかきむしりながら、シャルは続けた。
「だが」
「……?」
フィンの視線に当てられ、もうまともに彼女を見れないシャルは床を睨みつけるようにして続きを口にする。
「それはあくまで僕の主観だ。他のやつらがどうであろうが僕の知ったこっちゃない。ああ、確かにそうやって言ってた彼女らは楽しいんだろう。嬉しいんだろう。所詮一時の気の迷いに過ぎずとも、その
一時の、
一時の心の移り変わりが楽しくて楽しくて仕方がないんだろう。相手に何かを言われることが、相手に何かをしてもらうことが。自分が相手に何かいうことが、自分が相手に何かしてやれるのが嬉しくて嬉しくて仕方ないんだろう。理解できん、まったくもって僕には解せないがな!」
先ほどむきになって否定したとき以上に息を荒げ、シャルはまるで叩きつけるように言葉を締めた。まるでそれは自分に言い聞かせるように。
病人に対して何故ここまでむきになってるんだ。そうだ、熱のせいでうわごとを言ってるだけ、どうせフィンはその程度にしか思ってないはずだ。そう自分に言い聞かせつつ、今自分で言った言葉に対する彼女の反応を見よう、ようやく顔を上げ、
「……そう」
柔らかく微笑む彼女を見て、シャルは石造のように固まった。
それはまったくの不意打ちだった。それはどうしようもないほどの不意打ちだった。
彼女の微笑みなどいくらでも見たことがある。いくら感情が虚ろな彼女といえど、ギルドメンバーとして触れ合ってきた月日はそんなに短くはない。その中で彼女が笑うことなど、確かに珍しいことではあったがなかったわけではない。
だが、このタイミングで。自らの言葉で自らが揺らいでるタイミングで。
熱のせいか、それとも、別の原因か。頬がうっすらと赤みを帯びている彼女の笑みは。
綺麗、過ぎた。
「い、以上だ! ぼ、僕は粥を作ってくる、大人しくここで待っていろ!」
「ん、わかった」
一瞬にして血液が沸騰するかと思うぐらい赤くなってしまった自分の顔を隠すように、シャルは椅子を蹴飛ばしながら乱暴に立ち上がった。フィンはそんな彼の心境をまったく理解などせず、心の機微に疎すぎる彼女は理解などできるはずもなく、ただ静かにうなずき返す。
その仕草が、彼の心に更なる波紋を掻き立てる。意味もなく、言葉が胸の奥から出てくる。まったく思っていない、空虚な空言の怒声。
「ええい、そもそも僕の治癒魔術はまったく意味がなさないというのに、何故こんなことに、何故、僕が……!」
「それはさっき聞いた。シャル、そんなに嫌だった?」
「……っ。……………ああ、もうっ!」
目に見えて悲しげな感情を瞳に写すフィン。
最後の問いには自棄になったような荒声で答え、シャルはフィンに背を向け、非力な彼にしては精一杯の力で扉をあけて部屋を出て行く。バシンッ、と部屋に反響する扉がしまる音にびっくりし、少しだけ首をすくめたフィンは、
「ふふふ」
自分ですら意図しない、小さな微笑を漏らした。そのまま、何だか胸元がくすぐったくなり、ショートカットのさらさらな髪を揺らしながらくすくすと再び笑いを漏らす。
それは、神の意思を理解できないままクルセイダーとして生まれ、虚ろすぎる感情のままパラディンになり、人と意思をつなげるところか、神とすら意思をつなげれず福音を歌えなかった少女が感じた、初めての淡い鼓動であった。