Scene17

 何だかんだで長くなりました。その割りに話は進みません、でもCDLは全体的にスローペースなのでご了承いただけると嬉しいです!
 そんなこんなでScene17。生体スレ見慣れてる人にはアルマの性格・口調など違和感あるかもしれませんが、俺の中でのアルマってことで了承していただけたら幸いです。




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 アルマイア=デュンゼの朝は早い。
 早起きは三ゼニーの得、という古来からの諺があるというが、いくら商魂たくましいアルマイアとはいえどたかが三ゼニーのために朝の貴重な時間を無碍にはできない。朝はいつだって暖かな布団の中で包まっていたいし、二度寝なんて最高だと思う。
 それでも、ただ単に、生体工学研究所二階部の料理長という肩書きは、皆が思っている以上に彼女の体を律しているらしく。
 朝五時半には、頼んでもいないのに体が勝手に目覚めてしまうのだ。

 彼女は栗色の寝巻きのまま、何の前触れもなく開いてしまった双眸でぼんやりと天井を見上げていた。体にかけられたシーツは微塵も乱れた様子もなく、眠気の欠片も残ってなさそうに開いた目だけが彼女が起きているというのを示している。ちろり、と彼女は横目で目覚まし時計を見た後、小さく嘆息。そのまま体に抗うように目を閉じて寝返りを打ってみるも、一度完全に目が冴えてしまった以上、二度寝などにありつけるわけもなく、半身だけ起こして大きく伸びをした。
 手を下ろす際、結局今日も本来の役目を果たせなかった目覚まし時計のスイッチを叩く。最後にこれに起こされたのはいつだっただろうか。少なくとも、ここ数ヶ月の記憶を掘り返してみたところでまったく思い出せない。

「ふぁーあ……」

 まだ齢十いくつかのうら若き乙女として、こうも毎日早起きしている自分は一体どーなのか。
 そんな今更な考えに、最後の抵抗といわんばかりに小さく欠伸を残す。

 確かに人の世話をするのは好きだし、皆の料理を作ることだって吝かではない。他の人に任せていては、イレンド=エベシを除いてほぼ料理の腕が壊滅的だからやむなし、という点もあることは、あるけれど。それでも、それが義務になってしまえば、何だか自分が皆の母親になったようなものではないか。子供どころか夫さえ、というより、好きな人さえいないというのに。
 それに、こういう役目は自分ではなくて、誰か他の人がやっていた気がする。
 皆のことを等しく見つめ、まるで父のように、兄のように、いてくれた人がいた気が、する。

「……起きよ」

 どうやらまだ頭が寝惚けているらしい。頭にかかった靄を振り払うように、アルマイアは緩く首を振る。イグニゼム=セニア、ヒュッケバイン=トリス、カヴァク=イカルス、ラウレル=ヴィンダー、イレンド=エベシ、そしてアルマイア=デュンゼ。この六人でいつも暮らしてきていた。他にもう一人なんて、いるはずがない。
 何だか、頭にノイズが走る。本当に、そうだっただろうか。

「何この変な恋煩いみたいなの」

 げっそりとため息をつく。知りもしない誰かに思いを馳せる、なんて、自分の年齢でやっていいことではない。やってもいいかもしれないが、自覚してはいけない。恥ずかしい、とても恥ずかしい。幼い頃の自分の所業を思い出して、枕に顔を押し付けて足をばたばたさせながら奇声を発してしまうぐらいに恥ずかしい。
 もう眠る眠らないなどと言っている眠気など、とうの昔に霧散してしまった。まだぬくもりが残るシーツから、アルマイアはするりとシーツから抜け出した。

 ふと時計を見ると、どうやら無駄な思考のせいで時間は刻々と過ぎ去ってしまっていたらしい。
 手早く寝巻きを脱ぎ捨てて、ショーツ一枚の格好のままクローゼットの前に立つ。いくらまだ秋だとはいえ、裸同然のこの格好は中々に寒くて、いつもの雑な造りの癖に微妙に暖かい商売着が恋しくなる。
 クローゼットの扉を開けると、内扉についている鏡に写った自分と、目が合った。
 兄とは違う、茶の深い髪色に、主にお金にしか輝かないという少しばかり悲しい、灯火のような薄い朱の瞳。下着にすら覆われていない双丘は、彼女に女らしさを与えてはいるものの、彼女の親友であるトリスと比べるとどうにも見劣りしてしまう。というより、単にトリスが平均基準を高笑いしながら駆け抜けて行ってしまっているだけともいうのだけれども。
 それでも、毎日浴場で隠されもせず凶暴なままに曝け出されているトリスのそれは、毎朝こうしてアルマイアを憂鬱にさせるだけの破壊力を伴っていた。

 考えていてもしょーがないか。持ち前の楽観さで彼女はさらりと憂いを流し、クローゼットの奥のタンスから下着を取り出して身につける。そしてワンピース型の商売着を着込み、軽く寝癖がないかどうかくるくると鏡の前で数回ターンを刻む。

「よしっ」

 チェック完了。アルマイアはクローゼットを閉めて、ふとベッド脇の時計を振り返った。そして、少しだけ笑みを浮かべた後、早足に部屋を出て行った。
 時刻は午前五時二十五分。アルマイアの朝が、始まる。




 洗面所で顔を洗った後、食堂へ行こうと修練所を横切ったが、そこにまだセニアの姿はなかった。無人の修練所を見て、アルマイアは今日が奇数の日だと確認する。セニアは、奇数の日の朝には基礎修練しか行わないため、大体ここにくるのが朝の六時ぐらいとなっている。偶数の日は型稽古があり、型の稽古は一人では出来ない。では、誰がそれを指南に来るかと言えば――――彼女の兄である、セイレン=ウィンザーがわざわざ階を降りて教えにきているのだ。溺愛する兄を、自分の基礎修練などで待たせるわけには行かない。弟子としての鏡ともいえる彼女の心境は、アルマイアが起きるよりも早く修練所でセニアに剣を振るわせている。
 セニアがまだ眠っているということは、いよいよ起きているのは自分だけのようだ。後三十分もすれば朝の礼拝を終えたイレンドが手伝いに来てくれる。それまでに、下ごしらえは終わらせておかないと。

 アルマイアは六人分にも及ぶ割と膨大な量になる朝食の献立と作る順序を考えながら、食堂の扉を開けた。
 さぁ、戦闘開始だ。




 水の冷たさに毎度毎度顔を顰めたり、お湯を沸かしている間に六人分の食器を厨房のテーブルに並べたり、スープの中に切り刻んだ野菜を放り投げたりしていたところで、イレンドが厨房にやってきた。今日もいつも通りきちんと身だしなみを整え、皺の一つもない聖衣に身を包んではにかみながら朝の挨拶をしてくる彼に、アルマイアは思わず目を細めてしまう。
 あぁ、素直な子っていいなぁと脳がだらりと溶けている最中、ふと気づく。何か今の思考、明らかに母親のそれではないかと。

「あ、あたしまだトリスと同い年だよね……?」
「どうかしました?」
「う、ううん、何でもない、何でもないよ」

 何か自分の年齢に若干の疑問を感じ始めたアルマイアに、イレンドは相も変わらず爽やかな笑顔で小首をかしげる。
 屈託も裏もない、朝の小鳥の囀りをイメージ化して凝縮したような愛らしさ。そこにいるだけで花が咲き、老若男女問わず人々の心を和ませてしまうだろう、そんな愛嬌。百人いれば、おそらく九十人以上からは可愛がられるだろう。
 そんな笑顔に、またしても脳が溶けた。

「あー、もう。ホント、イレンドって得よねぇ……」
「い、いきなり何言い出すんですか!?」

 何やら危ない笑顔、というか、にやけ顔で呟くアルマイアを忌避してか、イレンドは背筋に冷たいものを感じて思わず数歩後ずさった。姉であるマーガレッタ=ソリンを初め他数名からこんな顔をされるとき、大体があられもない姿に剥かれてしまうのだからさもありなん。法衣の襟を知らず両手で押さえてしまっている。何だか、子犬が怯えた様に少し似ているなぁ、などと、能天気に思う。
 そういうイレンドを見ていると、本当に母性本能――――というのには少々語弊のある加虐心をそそられながらも、若干の罰の悪さも感じる。アルマイアは片手で手招きしつつ、小さく笑った。

「冗談冗談。マーガお姉ちゃんやトリスじゃないんだし、そんなことしないよー」
「デフォルトでそう認知されている姉さんって……」

 弟として泣きそうになってしまう。

「あはは、でもそれがマーガお姉ちゃんだし。諦めるしかないんじゃない」
「アルマって、本当にそういうところでさばさばしているよね……ハワードさんみたい」
「んー。血筋? でもどうだろうねー」

 野菜が沈んでしまわないようにぐるぐると鍋をかき回しながら、アルマイアは自分でも信じていないようにけらけらと笑った。その笑いの色に、いつもの彼女らしくない小さな自虐の色を見つけて、イレンドは何を言っていいのか少しだけ、ためらった。
 けれど、こういうときどうすればいいかを知っているこそ、いつも柔和な笑顔を浮かべていられるわけであって。
 アルマイアの脇に立ち、胡椒の瓶を差し出しながらイレンドは、合わせて笑う。

「ふふ、でも本当に血筋としたら、僕と姉さんはひどいことになっちゃいますよ」
「あははははは。それもそうだねー。イレンドがマーガお姉ちゃんみたいになっちゃったら、スケベ三人組になっちゃうし」
「す、すけべ!?」
「だってラウレルってば思いっきり年頃の男の子そのままだし、カヴァクはむしろ羞恥心が欠片もないっぽいから普通にトリスといちゃついてるし……あー、何であたしこんなこと言ってるんだろう?」
「僕も何でこんなことを聞いているんでしょうね」

 受け取った胡椒をぱらぱらとスープに振り掛けた。ふと漏れた笑い声は、二人分合わさってそう広くない食堂に響く。
 朝っぱらから、本当に何ていうことを言っているのだろう。大したことはないはずなのに、何故か二人で同じことを笑っているのが面白くて。
 つい、手が滑った。

「あ」
「……あ」

 気づいたイレンドの声。遅れてアルマイアの声。
 どさ、っと降りかかったスープの表面に鎮座する灰色の粉を二人して注視した。
 いつもは胡椒三振り。それ以上やると、まだ胡椒の辛さがあまり得意ではないセニアの舌が悲鳴を上げてしまう。それでも彼女は出されたものはきちんと食べるという主義の以上、涙目になりながらも食べてしまうわけで。現状のこれは、三振りの十倍でようやく足りるかどうか。これは流石に、涙目どころの騒ぎではなくなりそうだ。辛党であるトリスですら眉根をしかめてしまうかもしれない。
 流石のアルマイアも、自身の妹のように思っているセニアまで虐める趣味はない。しかし、これから新しくスープを作り直すなんて、そんな時間は。

 そうだ、時間だ。
 アルマイアは脳裏に浮かんだ言葉に、一人で重々しく頷いた。まったく、何たることだ。このアルマイア=デュンゼともあろう少女が、とても大事なことを忘れていたようだ。

「うんうん、そうよね。忘れちゃダメだったよね」

 頷き、そして笑顔。イレンドの肩にぽんと手を置いてにこやかに微笑んでくるアルマイアを不気味に思いながらも、彼は気丈に訊き返す。

「どうしたんですか?」
「うん、いや、ね。ほら。もう時間だなーって思って――――あ、あたし、トリス起こしてくるネ?」
「起こしてくるネ、って可愛くぶっても困ります―――って、ちょっと待ってくださいよ!? これ僕が後どうにかするんですか!?」
「あははは。大丈夫、イレンドの腕だからきっと何とかなるよ! だから、はい、これ」
「あ、はい―――って、いや、そんな問題じゃなくてですね……ああ!? アルマ、待ってよー!?」

 鍋をやけくそといわんばかりに適当に混ぜ繰り込んで、その光景を見て絶叫を上げたイレンドにお玉を押し付ける。思わず反射的に受け取ったイレンドに破顔一笑、アルマイアは声高らかに「後は任せたねー!」と一声残して、食堂から一目散に駆けていった。




「……また育ってない?」

 おっはよー、トリス! 今日もいい朝だよ、ほら起きて!
 そんな言葉から始まるはずだった朝の挨拶は、寝巻きも下着もつけずおまけにシーツを蹴り飛ばして豪快に腕を広げたまま眠っているヒュッケバイン=トリスの肢体を見たが故にかくも無残にかき消されてしまった。
 おかしい、ここ数日は確かにそれぞれ時間の都合で一緒に入浴することもなかったが、一週間前に比べるとミリ単位ではあるが確実に育っているように感じる。全ての真贋を見極め物品全てに値定めを出来るという稀有は稀有だが戦闘にはまったく使いどころがないスキルを持つアルマイアは、目の前に聳え立つ双丘を見ながら頭を抱えたくなった。いつか呪詛で親友を祟り殺すことができそうな自分が、彼女にとっては少々複雑のようだ。

 扉を勢いよく開けて硬直していたアルマイアは、はっとして間抜けにも高々と上げられていた右手を見上げて、げっそりとため息をついた。見た目も仕草も子供っぽい自分が少しばかり、嫌になった。

「ほら、トリス。起きてよー」

 できるだけ目に毒な二つの物体を視界に入れないように、明後日の方向を向きながらトリスの肩を揺する。間違えても今自分は下を向いてはいけない。むざむざとトリスの得意なインベナムを食らう必要性はないのだ。きっと脳みそにというか精神的に大ダメージを食らった挙句、じわじわと嬲り殺しにされてしまうであろうし。
 しかし、この情景。男連中が見たら果てしなく洒落にならないだろうなぁ、と、そんなことをふと思う。

「ん、んー……」
「おーきーてー。もう、あたしすぐに厨房戻んなきゃいけないんだからー」
「あ……と、五分……」
「またそんなべたな」
「さんじゅー……ななびょー」
「だからって微妙な数字にしなくていいんだからね!?」

 あー、もうこれは本当に眠ってるなぁ。アルマイアの頬に柔らかい笑みが浮かぶ。
 ぺしぺしとトリスの顔を叩いてみるも、もう反応は帰ってこなくなった。ただむずがるように、自分で蹴飛ばしていたシーツの中に包まろうと芋虫の形をとり始める。
 これはもう少し後で起こしに来たほうがいいのだろうかと時計を見上げると、朝食まであと大体十五分といったところ。本来皆を起こさなきゃいけない義理なんてないのだけれど、起こさないまま朝食を食べていると起きて来たとき不貞腐れるのが二名ほどいるため、その二名だけは起こさなければいけなかった。
 目の前で眠りこけているその二名の内の一人は、とりあえず一度は起こしたということで後はトリスの責任にしてしまおう。自己責任という言葉は大好きだ。

「はい、愛しのトリスちゃん。ゆあすいーとはにーアルマイアちゃんからの質問です」
「んー……さー、いえっさー」
「あたし女の子だからマムじゃないの……って、それはいいとして」

 頬をつついて完璧に眠りこけてるのをもう一度確認して、アルマイアはこほんと咳払いを一つ。

「あたしはトリスをちゃんと起こしに来て、トリスは一度起きました。ね?」
「んぅ……うん、わたし、起きたー……くぅ」
「……可愛いなぁ、もう」

 寝惚けながらの声に思わず顔の造形が緩む。
 自分の世話焼きの性格とかは、普段はしっかりしているくせにこういうピンポイントで弱点を見せる親友とかとつるんでいるせいなのかもしれない。それがたまたま、他のメンバー分の五倍に増えただけだったり。五倍に増えた責任は、何だか料理当番という責任と等価な気がした。

 それでもその責任を、それ程苦に思っていない自分がいるのも確かだ。

「ん、じゃあ、トリス。あたし行くね?」
「う……ん、いってらっしゃーぃ」
「だからそんな甘い声出してると、キスしちゃうぞこんにゃろー」

 有言実行、と言わんばかりに、アルマイアはそこまで大きくない体をさっと屈めてトリスの頬にキスをした。流石に唇などにはしないものの、頬やおでこにキスなど割と日常茶飯事でやっているので気にはしない。ただ、相手が眠っている時にするのなど初めてで、少しだけ後ろめたいような、背徳感のような。
 トリスはキスの感触がわかったのか、シーツを握り締めていた手を開いて宙を軽く掻いた。誰かがそこにいるとわかったのだろう、その手は一体、何を求めているのか。

 少なくとも、あたしの手じゃないんだろうなぁ。
 苦笑を一つ。トリスの右手を宙でタッチして、きゅっと握った。にへら、と、トリスの顔が安心したように緩む。

 おやすみなさい、また後で起こしに来るからね。
 トリスの耳元に、聞こえるか聞こえないかぐらいの音量で小さく囁き、アルマイアはつないだ手をぱっと離して部屋の扉をくぐり、廊下へと出た。

 朝の廊下は、秋とはいえ深と冷え切っている。起き抜けの頃に比べれば自分の体温もいくらか上昇しているためマシといえばマシだが、布団に潜り込んでいるトリスがちょっとだけ羨ましい。尤も、今から自室へ戻ってもう一度布団の暖かさを甘受するなどという選択肢は、今頃厨房でスープのリカバリーに涙目になっているイレンドを思えばできるはずもないとアルマイア自身わかっているのだけれど。
 んー、と伸びを一つ。朝の空気を胸いっぱいに吸い込み、さて残る一名を起こしに行くかと歩みを進めたときに、ふと足元の光源に気が付いた。

「……あれ、これカヴァク?」

 二階部メンバーの中で、唯一生活が不規則な人物がいる。びっくりするぐらい朝早く起きてきたかと思えば、何をするまでもなく朝食を待つために食堂でぼうっとしていたり、皆が呆れる昼頃にのっそり起きてきては、そのまま夕食まで一切何もご飯を食べなかったり。周りの生活サイクルにとんと無頓着なため、アルマイアも彼が起きてくれば朝食を出すというスタンスに切り替えて以降、取立てて起こしに行こうとは思わなくなってしまった。
 そんな彼、カヴァク=イカルスの扉の隙間から、うっすらと部屋明かりが漏れていた。この時間に起きていれば、電気をつけないまま彼は食堂にくるので、どうやら徹夜をしていたらしい。また何か遊んでいたのだろうか。

 開いたままの扉から、彼の部屋を覗き込む。その光源は青白く光る弱々しいモニターと、そのモニターの左上の壁に設置されている室内灯だった。中央天上にあるメインの灯りはつけず、端末脇の光源とモニターだけということは、当人も速めに眠るつもりだったのだろうか。もしくは案外、今がもう朝を迎えていると気がついていないだけなのかもしれない。そう思わせるほどに、彼は。

「……うわ、カヴァクが真面目な顔してる」

 アルマイアが、ぽつりと驚いたように呟いた。
 部屋口から覗けた彼の表情は、いつものようにぼんやりと取り留めのない半眼ではなくて、口元を引き締めて食い入るように画面を見つめていて、何処となく、切迫感に溢れているように感じさせた。少なくとも、今まで一度も彼のあんな顔は見たことがない。いつだって飄々と、何処か気だるげに、いつも何かに急かされて動いているラウレルとはちょうど対極にいるようなスタイルでいたように感じていたのに。

「へー、こういう顔も、できるんだ」

 手元の紙に、何かメモをしているかのようにカヴァクの右手が動く。ちょっと何かを書いたかと思えば、すぐに右手は手元のコンソールに戻り、傍目には凄まじい速度で彼の両手と両指が動いていた。
 何をしているかまでは、ここから伺える横顔だけではわからない。モニターの文字は見えないし、見えたところでアルマイアには理解できないだろう。
 でもしていることが遊びであれ、何であれ、長年の付き合いであるメンバーの新しい顔を見れるのはそれはそれで嬉しいものであり、アルマイアはにこっと笑顔を浮かべて扉から足を遠ざけた。真剣にやっていることを、邪魔するほど野暮ではない。
 後で、もしお米が余ったらおにぎりでも作って持っていってあげよう。どうせあの様子だと、まず間違いなく朝食にはこないだろう。下手すると、お昼を通り越えて夕飯までこないかもしれない。

 何に頑張っているかは知らないが、頑張っている人のために何かをすることは吝かではない。むしろ、世話焼きの本領発揮だ。差し入れのときに、彼が何をしているのかこっそり覗いてみよう。覗いてみてまったくわからなかったら、そのときはどうしようか。邪魔するのも悪いから、その場合は大人しく部屋を辞そう。
 そんなことをあれこれと考えながら、アルマイアはラウレルを起こすべくカヴァクの部屋を通り越す。そして、一つのことに思い至って、悪戯っぽく、微笑んだ。

 えっちぃのを見てたら、フライパンで頭叩いていいよね?
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by Akira_Ikuya | 2008-04-03 19:47 | 二次創作


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