Scene0-5

 まずは土下座から開始したほうがいいような感じです、晶ですこんばんわ。
 間隔長くなってすいません、ほんとすいません。テスト勉強とか云々で死んでました、っていうか、シャーペンが動きませんでした。
 そしてPCで無理やり書いた状況なのでちぐはぐな部分あるかもしれません。見つけたら随時直しておきます。ってことで、dat5話です。



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 意識がゆっくりと浮上していく。長い夢を見ていた記憶はない。ただ一瞬の眠り。刹那の記憶の欠落。
 ああ、自分は今まで眠っていたんだな、と。そんなことすら気づけないほどの、泡沫の園。
 そして思考は次第に覚醒し、体に重力が戻り、

「……っ!」

 エレメスは、自室のベッドの上で跳ね起きた。辺りを見渡す。そこは自分の部屋で、自分のベッドで。気づけば思い切り握っていたシーツは、寝汗を吸い取って少しだけ湿っていた。
 どくん、と心臓が一つ脈打つ。その震える鼓動を確かめたくて、荒い息をつきながら彼は胸元を強く強く握り締めた。掌に伝わる煩いほどの脈動は、確かに今自分が生きているということを伝えてくれる。

 生きている。生きて、いるんだ。
 その実感が何だか馬鹿馬鹿しく感じてくる。確かに馬鹿げているんだろう。自分はマーガレッタに、あのカドリールに。

「……ループした、のか」

 手を開き、握り締める。意識が途切れる最後の最後に網膜にこびりついた、あの錆び付いた金属鈍器。あんなもので顔面を思いっきり粉砕されたのだ、死なないはずがない。
 自分が死んだことによる世界のループ。これで何千回目のループかはわからない。これで全てがリセットされ、そしてまた自分の独りきりのレースがスタートする。
 そのはず、なのに。

 眉間にあるはずのない傷を感じ、エレメスは右手で顔を覆った。殴られた傷など残っていないのに、そこがずくんと疼く。
 あのマーガレッタは、何かがおかしかった。進入禁止区域に入ったのに発動されないモジュール315。自分に対して向けられた明確な殺意。脅すつもりなら、足を狙ったりなんかしない。食事や紅茶の中に毒物を混ぜたりなどしない。
 しかし、と首をふる。あれは毒物などではないだろう。マーガレッタが部屋で紅茶をご馳走した回数などたかが知れているし、その試行回数で効く毒ならば、毒物に特化した自分の体が警鐘を鳴らさないはずがない。それに、食卓に毒を混ぜたなら、他の誰かが耐性のある自分以上の症状を引き起こし問題になっていたはず。
 自分にだけ効いた不可解な毒。初めから標的は自分だったということ。そして、最初にこちらの逃走手段を奪い、その後、まるで何かをこちらに伝えたかったかのような時間。

 あの時彼女は何と言っていたか。
 裏切り者を殺すのは聖職者の務め。これは確かにそうだ、裏切り者は大義を背負った人間によって粛清される。だが、裏切り者と何故知っている。でまかせにしては出来すぎている。
 永遠に続く明日を甘受せずに永遠を壊す。永遠に続く明日? そうだ。この世界は、このシステムは、ループし、ループされる時間内でしか動けない。その向こう側へはいけない。

 ――――――待て。
 ぐるぐると渦巻いていた思考を止める。永遠を壊す、ああ、確かに自分は永遠を壊す。
 だが、何故それを、マーガレッタが知っている。何故システムのことを、ループのことを暗喩したようなことを、マーガレッタが発言できる。
 もしかすると、マーガレッタは全てを知っているのだろうか。
 
 全てがループされ、記憶は漂白される。
 それと一緒にマーガレッタの記憶も漂白された、というのは、楽観的過ぎるだろう。あの知識、あの戦闘技量。そしてあの隠密行動。とてもではないが、ただの聖職者が一朝一夕で身につけれるものじゃない。
 アレは、ずっと待っていた狩人のソレだ。聖職者の皮を被った狩人は、獣が毒にかかるのをただひたすら待ち続けていた。その獣を狩り、獣の記憶が漂白されるのを待つために。

 そして、マーガレッタは。
 おそらく、エレメス=ガイルが固有の時間を生きていることを、知らない。

 記憶が保持されるのを知っているのならば、安易に自分を殺さないはずだ。記憶の保持方法を探し出し、それが見つからないならば何処かに永続的に監禁するしか手段はない。たとえ殺したところで次のループで記憶を持ったまま生きていれば、また目の前に立ちふさがるのは自明の理だ。
 そして現に自分は立ち上がる。立ち上がらなければいけない。

 ベッドから置き、姿見の前を通過してクローゼットを開ける。
 取り出すは白銀の戦闘装束。獣の骨のようなものを象った、鋭利であり獰猛でもあるそのフォルムは、まさしく自分に与えられたプログラム名そのままだと常々思う。

 自分に与えられたプログラム名は、【牙 - ヴェノム】。皆を裏切った獣に与えられたその毒は、まさしく裏切り者の名の通り皆のプログラムを全て食い荒らすことが出来る。防御無視の絶対的なこのプログラムの前には、どのプログラムでさえ起動を停止させる。
 だが、その反動は大きい。どのプログラムでさえということは、言い換えれば、全てのプログラムを停止させるに等しいのだ。それこそ、埋め込まれている生命維持プログラムすら。
 だからこそ、できるだけ使いたくはないプログラム。けれど、マーガレッタが全てを知り、そしてなお自分を殺そうとするのなら。永遠に続くこのループにいたいというのなら。

 ――――たとえ何度、セシルを殺しても。たとえ何度、皆を血祭りに上げても。
 ――――――必ず、いつか、皆を、救い出してやる。約束だ。

 この亡霊のような自分に遺された、尊いほど大切な約束を果たすために。 




 自分は内部に埋め込まれたプログラムによって、記憶を保持することができる。これは開発側が自分にそのような役割を望んだからであり、裏切り者としているためには必要不可欠なシステムだ。
 しかし、他の皆はそれを用意されてはいない。皆が皆記憶を保持などしていればどうなるかなど火を見るより明らかだ。だから記憶の漂白が起こる。
 その漂白に抗うにはどうすればいいか。あのマーガレッタ=ソリンは、何を以ってして記憶の漂白を退けているのだろう。

 誰にも見つからないように廊下を駆ける。決着をつけるならば一両日中。それ以上伸ばせば、マーガレッタはこちらの記憶について気づくだろう。そしてソレに気づかれたならば――――待っているのは、昨日の惨劇よりも酷い本格的な全面戦争だ。
 そんなことはさせない。エレメス=ガイルがエレメス=ガイルであるために必要な約束のために。
 そして、彼女にもう、あんな寂しい笑顔など浮かべさせないために。

 走っていた足を止めて、エレメスはその扉の前で立ち止まった。
 彼女のからくりに関係ある場所はたった二つ。あの四階の閉鎖区域と、彼女のテリトリーとも言える彼女の自室だけだ。四階の閉鎖区域で何らかの補助プログラムを見つけた可能性も考えられるものの、あそこへ行くのは出来るだけ避けたほうがいいだろう。もしあそこで彼女と鉢あわせば、こうして悠長に探す暇さえ失われる。
 だから、扉を開く。幸いにしてマーガレッタは部屋を空けているようで、中にはしんとした空気が静かに主の部屋を守っていた。

 無言で部屋へと入る。相変わらず過剰なまでに飾られたこの部屋は、今となっては少しだけ主の心情を映してるかのように見えた。
 保持される記憶。漂白される皆の記憶。それがどれほどまでに辛いかは、同じ立場だからこそ、わかる。その寂しさを僅かでも埋めるために色々なものを蒐集していたのだろう。
 冬の空気が冷たい。彼女の部屋には、そんな寒さを少しも覆い被せれない悲しさが残っていた。

 自分は決してその部屋を暖める暖炉には出来ない。亡霊たる自分はただ約束を糧にして生きているだけだ。全てを終わらせるために、死すべき記憶をただ抱えたまま邁進する存在。
 だからこそ、全てを終わらせるために躊躇などしてはいけない。誰が前に立とうと、全てを終わらせる。全てを奪う。
 暖めることができない代わりに、せめて、全てを終わらせよう。

 部屋の中を目星をつけて探して回る。デスクの上、引き出しの中、衣装入れの中。普段ならば絶対に明けないであろう場所も、今となっては別に何も感じずにその扉を開き、探し、けれど何の成果も見つからなかった。机の上に散乱しているのは聖書でも書き写していたのか、僅かに読める程度の異国の文字が書かれたノートと、そしておそらく元となった聖典。開かれていたページを見ると、右上に書かれている章を表す一単語だけ読むことが出来た。
 それは、嘆き、と、書かれていた。

「……ルゼル・イオ・リプカ」

 あの夕方、食堂でマーガレッタの唄を初めて聞いた日に教えてもらった賛美歌の名前。結局、この唄の意味を聞くことはできなかった。ロイ・カ・オルフの意味だけは教えてもらえた、いや、それだけで確か話が終わってしまった。
 この唄の意味を、あえて、自分に教えないようにしていたのかとも、今となっては思ってしまう。カドリールを振り下ろす瞬間に彼女が呟いた言葉が脳裏に反芻する。


 ――――ならば、私は嘆き悲しみましょう。永遠に続く明日を守るために。オルフの兄、ルゼルのように。貴方のことを嘆きましょう。


 オルフの兄であるルゼルは、弟が楽園を去ってしまったことを、永遠を壊してしまったことを嘆いた。
 エレメスの仲間であるマーガレッタは、エレメスがここを脱出しようとすることを、永遠を壊そうとすることを嘆く。
 まさしく聖書のように。教えの使途である聖職者は、それを実行した。

 あの時口ずさんでいた賛美歌は、そんな彼女の心の慰めだったのだ。その唄を好きか嫌いかと問われた彼女。
 愛しいヒト、と、言ってくれた。脳裏に浮かぶのは、どうしても彼女の寂しそうな笑顔だけで。

 やりきれない思いに蓋をして聖書を閉じる。散らばっていたノートの切れ端も拾い集めて、聖書の脇に置いた。
 後他に探してない場所は、と辺りを見渡してみてもやはり目ぼしいものは見つからなかった。本棚は以前見たことがあるし、キッチンなどを探しても取り立ててみつからないだろう。天井裏のスペースなど存在するはずがないし、あの天蓋月のベッドには物を隠すという使用法があるとは思えない。
 だとすれば、やはりここにはないのか。四階部―――あの禁忌の間に置いてあるとでも言うのか。

 デスクを離れ、ベッド脇を通過し、本棚を横切り。

「……本、棚?」

 唐突に、彼は立ち止まった。
 デスクへと戻る。書き散らかされた聖書の文字片。これを見たときに僅かに引っかかったことがあった。
 書き写された文字が、読めない。聖書が書き写された時代の文字の名残を引き継いでいたのだろうその文字は、妙に癖が強く、字体もばらばらで自分たちが生きてきた時代の文字に即していない。そして、マーガレッタの文字は、確かにそんな文字ではなかった。しっかりと読める文字で書かれた文章を、自分は見たことがある。

 そう、ソレを見てしまって、部屋から蹴りだされたことがある。

 ノートの切れ端が舞い落ちるのも構わず、彼は持っていた紙を投げ捨てて本棚へと駆け戻った。フリルがついた本棚の隠しをどかす。このフリルは、単に装飾の過程で付け加えたのではなくて、一度でも本棚に隠しているその存在を知られてしまったがために用心して取り付けたものだったとしたら。 
 かくして予想は当たり、彼は、それを本棚から抜き出した。

「日記――――!」

 記憶の漂白が起きても、それはただ単に記憶がリセットされてインプット領域から適当な位置で記憶付けされた内容を引っ張ってくるだけだ。だから、その人間が本来なら習慣として覚えていることは引き続いて実行される。食事だったり、入浴だったり、朝の鍛錬だったり、そう、そして。日々の出来事を書き留める日記だったり。
 だからこそ、この日記が外部端子になっていることは十分にありえる。もしくは、この日記に書かれている過去の内容を知り、内部プログラムで何かエラーでも起きたか。
 自分の指を小さく噛み切り、薄く流れた血を日記にそっと這わせ、


 ――――――外部プログラム確認。モジュール004【牙 - ヴェノム】、実行。
 ――――――――モジュール005【監視者】、実行停止。


 流れてきた結果に、彼はほうと息をついた。外部端子を失った以上、記憶が保持されることももう起きなくなる。内部エラーの線が消えたわけではないが、起こる確率はぐっと低くなるはずだ。それに、もしこの内部エラーが起きたとしたら、次はプログラム005ではなくモジュール315のほうが起きるはず。
 彼女が心の底から永遠を望んでいたとしても、その永遠の存在自体を知られることはもうない。ある意味、彼女が求めていた通り、ずっと永遠が続く。彼女の知らない場所で、知らないままで。
 言いようのない罪悪感を抱えたまま日記を本棚に戻した。もう白紙に戻されたこの本には何の効力も持たない。ただの白紙の日記帳として、マーガレッタがこの本の存在に気づくまでここに置かれたままになるだろう。
 もう今までのようなマーガレッタを見ることも、なくなるだろう。

 あの時飲んだ紅茶の味が、未だに舌に残るいる。あのときの拗ねたマーガレッタの顔が、未だに脳裏に残る。あの少しだけ不器用な彼女の優しさが、全てが嘘だとは思わない。あれもマーガレッタという女性が見せる、感情の一切れだったのだろう。
 彼女のそんな一面が、今では少しだけ、辛い。

「さて、それでは……」

 それでも振り切って、前に進まなければいけない。
 このループを終わらせるために。

「最後の仕上げ、と行くでござるか」

 この外部プログラムを消されたことはおそらく彼女も察知しているだろう。
 そして、その彼女がここにまだ訪れないということは、つまり。


 部屋を後にする。
 目指す場所は、四階部。禁忌の間。 
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by Akira_Ikuya | 2007-10-02 18:20 | 二次創作


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