Story-Special1

 今日は平日ですよね?
 今年はチョコ0個っぽい八つ当たりをエレメスに向けて、バレンタイン用の小説投下。ちょい前にアプロダのほうにおき逃げしたやつの修正版です。

 あの時少しぼかしたけど、トリスだって渡したい人はいるんです。多分。



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 料理に必要なものって何だろう。最近、友人であるアルマイア=デュンゼに影響されて時々そんなことを思ってしまうことがある。

 たとえば、味つけ。某所が貧しい何処かのCさん(仮名、年齢不詳スナイパー)が作った料理ように、弓術など不要なほどに破壊力を持った味付けがなされたものなど、正直料理と言っていいのかどうかすら疑わしい。
 アレはクレイモアとラップに匹敵するんじゃないだろうか、というのが彼女の私見だ。よって、味付けは必要不可欠となる。

 たとえば、量。お得意の魔法で何処かの異次元とコネクトされているんじゃないかと疑わしい胃袋をお持ちのCさん(仮名、年齢不詳はらぺこ魔術師)にとって、少量の料理は味拷問に等しいのかもしれない。わざと少量にし、味を引き立てる料理もある。コース料理などがいい例だ。
 しかし、そんな料理を作ってしまえば、後に待つのはある意味地獄だ。別に彼女が怒って取り乱したりするわけでもないし、魔法を連射してきて料理人と固定化しつつあるEさん(仮名、年齢不詳アサシンクロス)が蜂の巣になるわけでもない。
 ただ、じっと見つめてくるのだ。涙目で。「もうないの?」といわんばかりに、小さく首をかしげて。
 この誘惑に勝てた人を、残念ながら見たことがない。自分の兄であるEさんですら完全にノックアウトされて厨房へと向かう始末だ。

 だから、量もある程度必要といえる。尤も、Cさんを固定観念として考えるのは絶対的に間違えていると、自分でもわかってはいるけれど。

 そして、最後に―――そろそろ面倒になってきたので、表現を直接的に変えようと思う。自分はこんなにぐだぐだとまどろっこしい仮名とか使うようなタイプじゃないのだ。
 彼女はそんな自分の思考にうんうんと頷きながら、同時に揺れる黒上のお下げを意気揚々と揺らしながら生体工学研究所2Fの廊下を歩く。
 歩いてついた先は、二階部の厨房。誰もいない丑三つ時の深夜、彼女は厨房の大きな扉を開けてするりと食堂へと忍び込んだ。

 そして、だ。話を戻そう。
 最後に必要なのは、なんと驚くことに愛情だとアルマイアはぬかした。あの究極的なリアリストというか現金主義なアルマイアが、だ。愛情などとは一銭の価値もなく、せいぜい相手が貢ぐのを釣るための餌としか考えていないようなアルマイアが、きぱっと笑顔で言い切ったのだ。愛情だ、と。

 愛情、愛情。
 そんな少女漫画的な思考がアルマイアの心に残っていたなんて、些か友達の価値観を図り間違えていた気がしてならない。アルマイアにとってどうかはわからないが、少なくとも、自分には縁遠い言葉だ。下手すれば異次元の単語にすら見える。

「困ったなぁ」

 だからこそ、参る。愛情なんかを求められても、せいぜい自分が入れられるのは悪戯心ぐらいだ。
 去年はラウレル=ヴィンダーとカヴァク=イカルスにあげたやつには唐辛子と山葵、エレメス=ガイルにあげたヤツにはお茶目心としてインベナムをかけておいた。ラウレルは面白いぐらいに廊下を転げまわって死に掛けてくれたのだが、カヴァクは平然と平らげて「甘みが足りない」と答えるし、エレメスは食べてその二秒後に解毒してしまうし。
 だから来年はもっとえげつないものにしようと、確か去年の今頃はそう固く誓っていたはずだ。少なくとも、古い付き合いであるカヴァクの鼻を明かし、できれば兄であるエレメスの涙目を拝めるぐらいにはと。

 と、まぁ、そんな具合に。自分には愛情なんてものを込められる自信がない。
 むしろ、ある程度親しくなってしまえば、愛情の裏返しとして色々なものを詰め込んでしまう。セシルあたりがその言葉を吐けば、いったい何処から仕入れたのかすら理解したくない調味料の類などがぶち込まれていると察しもつこうが、トリスの場合は、下手に料理などが出来るからこその遊び心ではある。しかし逆に、ある程度組み合わせの常識を知っているからこその悪夢が見れる場合だって、当然存在してしまうわけで。

 しかし、しかし。
 皆にとっての可愛い妹分であるイグニゼム=セニアにしてみれば、そんな遊び心すら入れれる余裕がないのだから、贅沢な話といえば贅沢な話なんだろうか。今日の夜、厨房で手伝ってもらいながらボウルの中のチョコレートをこね回していたセニアの長い後ろ髪が今でもまざまざと瞼の裏に浮かぶ。
 誰に上げる、チョコなのだろう。

 考えていることが胸に蓄積し、何だか少し息苦しい。胸に何かが詰まったかのように、気分が晴れない。
 今日作ろうとしているものの材料となる板チョコレートを両の手でお手玉のように宙へ投げやりながら、彼女、ヒュッケバイン=トリスはため息をついた。

 セニアの作ったチョコレートには、自分が込める遊び心の代わりに―――いや、比べることすらおこがましい。それほどまでに、偉大で、愛しくて、誰もが目を細めてしまうほどの途方もない量の愛情が込められている。それは親愛の情なのか、尊敬の情なのかはわからない。けれど、まるで蜂蜜シロップのように甘い甘いそれは、不恰好なチョコレートからひしひしと感じられる。
 自分が作った劇物入りのチョコレートと、セニアの作る愛情たっぷりのチョコレート。

 セイント・バレンタインデーに贈るチョコレートとしてどちらが相応しいかとか、考えるまでもなくわかりきった答え。
 別に、何かの行事ごとに合わせるような趣向なんてないし、人と違ったことをして面白がる性格だっていうのは自分でもわかっている。
 わかっているけど、何故かアルマイアのいった「愛情」という二文字が、それこそ溶けたチョコレートのように脳裏にこびりついて離れない。

「……うーん」

 自分がいつもチョコレートをあげているのは四人だけだ。ラウレル、カヴァク、エレメス、そして同じ二階に住まう義理としてイレンド=エベシ。流石に前者三人にやるような劇物を、ある意味清純さではセニアとためを張るイレンドにあげれるわけもなく、彼にはいつもノーマルなものをあげていた。
 それと同じように、ノーマルなのを皆に振舞えばいいだけ。

 それでいい、はず。

「……」


 皆に。みんなに。
 ……主に、義兄あにに。


「……よしっ!」

 数巡ほどお手玉されていたチョコレートを空中で掴み、トリスは棚から少し大きめのボウルを取り出した。しっかり洗ったのだろうけど、そのボウルにはまだチョコレートの残り香がふんわりと残っていた。鼻腔を僅かにくすぐるその香に、トリスはにかっと胸がすくぐらいの笑顔を浮かべて、腰の後ろにつけているポーチの中から板チョコレートを追加で三枚取り出した。
 合計四枚のチョコレート。それの銀紙を剥いて、トリスはボウルの中に放り込んだ。


 皆に上げるチョコレートだからこそ。兄にあげるチョコレートだからこそ。
 でもやっぱり、普通じゃつまらない。


「うん、ぐだぐだ悩んだってしょうがない」

 パキパキとチョコレートを砕きながら、トリスは満面の笑顔を浮かべて調味料を取り出した。棚から取り出したのは七つの薬味を砕いて調合した七味、そして胡椒粒を炒って潰して、山草と混ぜ合わせた山椒。
 そして極めつけ。真っ赤な袋に包装された、モノ。彼女はその袋の中に入っている、何か固形状のものを景気よくばこばこと砕き始めた。

 彼女の手の中でぐにぐにとひん曲がるその包装に書かれているラベルが伺えた。赤黒い文字でおどろおどろしく六文字で構成された調味料のネーム。分解して五十音順に並べると、「ネ」「ハ」「バ」「暴」の文字。余白的に後二文字ぐらいは書いていそうだったが、黒いマジックか何かで塗りつぶされて、何と書かれているかわからなかった。
 彼女の色と同じ、こげ茶のチョコレートの中にどんどんと赤黒い欠片が混ざりこんでいく。

「あたしに愛情なんて求めるほうが、そもそも筋違いなんだし」

 独り言のように呟きながら、トリスは満面の笑顔を崩さずに大き目のボウルを取り出して水を張った。このまま湯銭へと移る予定のようだ。釜に火をたいて、水が沸騰するのをゆっくりと待つ。
 そうだ、そもそも自分にそんなものを求めることが間違いなんだ。だって自分は、今までだってずっと愛情込めて色々してきたわけなんだし。

 蜂蜜のように甘い甘い愛情と、びっくり箱のように刺激的な愛情。

 愛情たっぷりのチョコレートなんて、セニアからもらえばいい。自分は、あくまで悪戯好きの手のかかる妹だ。そんな身分なんだ。むしろいっそ、チョコレートを食べて死んでしまえ。
 貰う人のことなんて一切考えずに、トリスはそんな風に結論つけて嬉々として調理に取り掛かるのであった。





 そして、翌日。セイント・バレンタインデー。

「んー……なーんか忘れてるんだよなぁ?」
「わぁ、チョコレートですか。もらっていいんですか?」
「ん? ああ、うん。イレンドのもあるから、食べちゃっていいよ」

 イレンド「のも」、あるから。
 ……はて?

「ありがとうございます! トリスさんのはいつもおいしくて、毎年楽しみなんですよね」

 いつもおいしくて、楽しみ。
 ……あ。

「ちょ、ちょっとまって、イレンド、それ食べちゃだ」
「カ、ラアッーーーーーーーーーーーーーー!!!?」


 ちょっとだけ悪戯を控えようかな、とも、最近は少しだけ思うようになってきました。
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by Akira_Ikuya | 2007-02-14 01:01 | 二次創作


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