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Story3 - Scene1

 生体萌えまとめサイトのアップデートにあった看病話に感化されてざざーっと書きなぐり。アレは終始ギャグだったけど、こっちは何だろう……?
 とりあえず、長くなったからScene2つに分けました。そんなわけで前編どーぞ。

 と、言い忘れ。微妙にWeb拍手変えました。今までランダム設定だったけど、順繰りに変更させてます。一番最後に小説一個乗っけました。ボツシーンだけど。



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「はい、始まりました、エレメスお兄さんの楽しいお料理教室~で、ござるよ」
「わー、ぱちぱち」
「いや、カトリーヌ殿。拍手してないのに擬音で言われてもちょっとむなしいのでござるが……」
「気にしない」

 自分の横でお米をざるの中でじゃかじゃかと洗っているカトリーヌ=ケイロンに、がくりとうなだれながらエレメス=ガイルは火にかけた土鍋の中に昆布を一切れ放り投げた。自分で言っておいてなんだが、別に誰に料理を教えるわけでもなく単に雑炊を作る間が暇だったのでノリで言ってみただけである。お気に召したのか召さなかったのか、ものの見事に真顔で切り返されてしまったが。

 米を洗い終わったカトリーヌは、一度ざるの上で米にまとわりついた水を切った。そしてそのままざるをシンクの横に置き、まな板の上においていた野菜を洗って一口サイズに切り始める。エレメスはぼんやりとシンクの上でくるくるとよく動く手を見ながら、煮立ってきた出汁の中で泳ぐ昆布をツンツンとつついてみた。

「それにしても、もうそんな時期でござるのかぁ」
「……ん、主に不注意」
「それを言ってしまえばどうしようもないでござるよ」

 カトリーヌのさらりとした言葉に、エレメスは片眉を下げて苦笑した。

「カトリーヌ殿も気をつけるでござるよ。流行モノでござるゆえ」
「ん、わかってる。エレメスも」
「勿論でござるよ。拙者たちが風邪を引いてしまえば、食糧事情が悲惨なことになるでござる」
「……ん、それは大変」

 冗談めいた口調に、けれど今度はカトリーヌはしっかりと頷く。まったく、ご飯が絡むとこれだとエレメスは微笑ましい気持ちになって顔の造詣を崩した。自分より幾つか年上のはずなのに、どうしてなかなかこういうところは無垢なのだろう。衛生面や私生活では意外としっかりしているというのに。
 意外と、と認識している時点で、エレメスも存外にふてぶてしくはあるけれど。

 いい感じにダシが取れてきた土鍋の中から昆布を掬い上げ、シンクに立っていたカトリーヌと場所を交代する。後の味付けなどはカトリーヌのほうが得意であるし、栄養面なんかも彼女のほうが詳しい。食べるばかりが能じゃない、といわんばかりに、彼女の料理の才は際立っていた。自分もそこそこの腕前と自負しているエレメスだが、病人に食わす雑炊粥などの微妙な味付けをカトリーヌ以上にやれる自信などない。
 もう使わない包丁やまな板を洗いながら、エレメスはついでに氷嚢のために氷も作っておこうと氷器具を棚から取り出した。既に、冷凍室に貯蔵していた氷は全て使い尽くしている。

 何故二人して雑炊粥など作っているかというと、何のことはない。二人の会話中に出ていたように病人がいるだけだ。いるだけだ、と言い切ってしまうのも少々難がある人数なのだが。小さい鍋ではなく、わざわざ土鍋で雑炊粥を作ろうとしている時点で悟ってほしい。また、ここで二人だけで調理している、というのも付け加えて。
 早い話、エレメスとカトリーヌ以外が軒並み全員風邪でぶっ倒れてしまったということである。発端は確かセシル=ディモン辺りだったと覚えているが、彼女の看病にいったマーガレッタ=ソリンが次に感染し、そして様子を見に行ったセイレン=ウィンザー、ハワード=アルトアイゼンと次々に移ってしまったらしい。元々職業柄、病原菌に対する耐性は昔から身に着けていたエレメスは見事に病原菌を打ち倒し、普段から食欲旺盛、睡眠たっぷりの超がつくほど健康体のカトリーヌ=ケイロンも病魔からさり気なく回避していた。

 しかし、冒険者たちの間で名高い生体研究所3F面子の三分の二が撃墜させられたということは、この病原菌の感染率がなかなかの数値を誇ることを示し、2F面子への感染を防ぐためにしばらく3Fに入ることは禁止されていた。その禁止される前にセイレンを看病するために3Fへ足を入れていたイグニゼム=セニアはしっかりとこの風邪に感染しており、今はセイレンと仲良くベッドを横にして病床生活となっている。何故自室ではなくセイレンの部屋で眠っているのかは、エレメスもカトリーヌもあまり把握していない。下手に突っつくと何処からかペコペコかナイトメアあたりが蹴り倒しにきそうなので閉口しておくのがいいだろうというのが二人の出した結論だった。
 そんなセニアが常時頬を赤く染めているのは風邪のせいなのだろう、多分。

 3Fの調理番ともいえるエレメスとカトリーヌ両名が無事だったのは不幸中の幸いというしかない。もしこの二人さえも撃墜させられていたら、今頃3F面子は餓死かそれに近い状況に追いやられていたに違いない。特にカトリーヌあたりが重点的に。

 土鍋の蓋に開いた小さな穴から蒸気が吹き出てくるピーッ、という音でエレメスはふっと我に返った。いつの間にやら雑炊粥ができてしまったらしい。ここ数日、みんなの看病やらなにやらに追われて、自分も少々疲れているのかもしれない。横で、いつもの無表情に少しだけ心配の色を混ぜたカトリーヌがこちらを見つめていた。

「じゃあ、膳に移して皆に持っていくでござるか」
「ん」

 二人は土鍋から、五つの器へとかゆを注ぐ。もわっと立ち上がる湯気と、醤油の微かな香が鼻腔をくすぐった。健康面を配慮して、けれど食べやすいようにしっかりと煮込まれた野菜や、栄養付けにととかれた卵が食欲を誘う芳香をかもし出している。

「じゃあ、拙者が先にセイレン殿とハワード殿の病室に持っていくゆえ、カトリーヌ殿は姫をお願いするでござるよ」
「ん、後でセシルにお願い」
「わかってるでござる」

 元々肉体面において屈強を誇るセイレンとハワードの症状は、女性三人に比べるとそう酷いものでもなかった。粥も自分で食べられるし、感染云々がなければ普通に食堂に顔も出していただろう。だから、彼ら二人には粥を配膳してやるだけでいい。
 けれど、症状が酷いのは女性三人のほうだった。いくら身体共に研鑽を積んでいる身とあっても、病気に対してはどうしようもない。セイレンやハワードほどタフならば問題はなかったが、女性にそれを求めるのは酷であろう。トイレなどは自力でいけるようだが、調子が悪いときは自分一人で食べるのも億劫だというほど具合が悪いらしい。

 セニアはセイレン手ずから食べさせてあげているからいいとして、残るのはマーガレッタとセシルの二人。エレメスが勇んで「では、姫の看護は拙者が!」と身を乗り出したものの、「カトリーヌ、よろしくお願いしますわね」の笑顔一つで撃墜させられたのは看病生活初日のお昼。それ以降、自然とマーガレッタはカトリーヌが、セシルはエレメスが、という構図に決まってしまった。たまに、ハワードが「エレメス、オレも今日調子が悪くってよぅ」などと言い出すときがあるか、そのときは普段の礼だと言わんばかりに粥を器ごと口に突っ込んでやっている。それでも何処となくハワードの表情に喜色が混じっているとかいないとか。

 三つの器を入れたお盆を抱えて、エレメスはまずセイレンの部屋を訪れた。扉の前に立ってみても、中から二人が動いている気配が感じられない。二人とも眠っているのか、と思い、エレメスは扉を開けた。

「……あ」
「……これは失礼仕った」

 妙に丁寧語になりながら、扉を閉めた。

「ちょ、ちょっと待ってください、エレメス様!」
「いや、拙者は何も見ていないゆえ、どうぞごゆるりと……」
「待ってくださいー!」

 扉の向こうで半泣きが混じった声を上げているセニアを無視できず、エレメスは器用に盆を片手で持ちながら額を手で押さえた。今しがた見えた、セイレンの寝顔をじーっと見つめるだけならまだしも、微妙に顔を近づけていたという光景を脳内からすっぱり削除して笑顔でセニアを迎えてやるべきか非常に悩む。あの子の性格柄、こういうことが他人に見られたというだけで恥だと考えるであろうし。
 よし、と思考切り替え。エレメスは、花が咲き誇ろうかといえるほど見事なまでな微笑を浮かべて扉を開けた。

「いやぁ、セニア殿。今日もいいお天気でござるな」
「エレメス様のバカーっ!」

 熊のぬいぐるみがエレメスの顔面めがけてダイブしてきた。

「うぷっ、酷いでござるよ」
「見られた……エレメス様に見られたぁ……」

 セイレンのベッドの淵でよよよと泣き崩れるセニア。病気のせいか、いつもの艶をなくした青い髪がベッドに広がる様はお化けか何かの類に見えなくともない。おまけに呟いてる声が妙に呪詛か何かのように聞こえなくともないし。

「そんな姫に見られたかのようなことを言わなくても」
「マーガレッタ様に見られていたら、私、今すぐここから逃げ出します……」

 いや、存外に元気でござるのな。
 寝巻き姿のままベッドを抜け出して隣のベッドまでいっているセニアを見ながら、エレメスは少しばかり苦笑した。

「とりあえず、お粥を作ったから食べるといいでござるよ。セイレン殿も起こして食べさせてほしいでござる」
「あ、はい。でも、今兄さ―――あ、兄上は眠っていて」
「また後で器を回収に来るゆえ、ゆっくりでいいでござるよ」

 わざわざ言い直さなくてもいいのに、と、苦笑を微笑みに変えて、二つのベッドの間に置かれているテーブルの上に器を二つ並べた。
 少しばかり量が多いほうがセイレンの器、量がセイレンの半分ほどのがセニアの器。

「ちょっと失礼するでござるよ」
「あ……」

 一言断りを入れてから、セニアの前髪を上に押しやって彼女の額に触れる。今まで水仕事をしていた肌に伝わるぬくもりは、確かに平穏よりは少し高いがほとんど誤差に近いものであった。どうやら、快調に向かいつつあるらしい。

「明日にでも動けるようになりそうでござるな。ここ数日、二階の皆と会っていないゆえ寂しいのではござらんか?」

 エレメスの手が冷たくて気持ちいいのか、セニアはとろんとした口調でエレメスに言葉を返した。

「あ……いえ、そういうことはありません。兄上に看ていてもらっていましたし」
「素直でござるな、セニア殿は」
「あ、ぅ、ぁ」

 思わず口をついて言葉が出てしまったらしい。セニアは薄く朱が差していた頬を更に赤く染めてセイレンの毛布で顔を隠した。口より上を毛布から覗かせ、真っ赤にした顔のままエレメスを上目遣いに睨む。

「そんなことをいうエレメス様は嫌いです」

 エレメスは笑って、セニアの頭を撫でた。
 まだもう少しセニアをからかっていたかったが、あまりしているとハワードのお粥が冷めてしまう。ここらで退散しておいたほうがいいだろう。ハワードにお粥を渡した後、セシルのほうにもいかないといけないのだから。
 それに何より。

「では、拙者はそろそろ行くでござるよ。器は食べた後テーブルの上においておいてくだされば」
「あ、はい。わかりました」

 エレメスはハワードの器を載せたお盆を再び手に取り、扉のほうに向かった。そして、ドアノブに手をかけて―――ほぼ不意打ち気味に、セニアではなく、壁際のベッドの上で眠っているセイレンのほうを振り返る。

「―――」

 果たしていつから起きていたのか。
 薄目を開けていたセイレンへ、エレメスは口を数度動かした。そして、すまなそうに片目を閉じた。
 セイレンはそれを見届けて、ふん、と鼻から息を抜くようにして両目を閉じる。傍に付き添っているセニアには、セイレンが眠りながら大きく息を吐いた、ぐらいにしか見えない挙動だっただろう。エレメスは口元に笑みをたたえながら、セイレンの部屋を後にした。
by Akira_Ikuya | 2006-11-23 14:45 | 二次創作


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