Story2

 スレでちょっと前に話題に出てたジェミニさんを書こうとしたら、ポルノの「Sheep ~song of teenage love soldier」なんていう俺のもつジェミニイメージとまったくあわない曲を聞いたせいで、何かずるずると長くなった短編その2.さり気なく一人称視点ですが、あんまり一人称というのを前面に出していません。いつもの三人称視点よりは、っていうぐらい。
 登場キャラクターはセニアとトリスとロードナイト。ジェミニSS書こうと思ったのにジェミニが出てすらいません
 そしてこのロードナイト。実はSDに出てくる某キャラクターです。



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 横薙ぎから銀円を描いて奔る剣戟を、ツーハンドソードを立てて半円を描いた時点で止めさせた。相手はそのまま押し込もうという意図か、踏み込んだ足に重心をかけて更にこちらへと詰め寄っていく。私が握るツーハンドソードがぎしり、と嫌な音を立てた。相手の澄んだ蒼い瞳が、私の顔を覗き込む。
 このままでは、まずい。相手が一人ならば拮抗状態に持ち込めたかもしれないが、その後ろでは―――、

「伏せて!」

 シーフの姿をした、まだ女の子とすら言える少女が、今まで私と鍔迫り合いをしていた少女の背を、重さを感じさせない動きで踏み飛んだ。剣士の姿をした少女は、シーフの言葉から彼女が次に起こすアクションを察したのか、剣に込める力を一瞬だけ緩めて、私が重心を崩した隙にすっと後ろへとバックステップを踏んだ。
 私は当然、それに釣られてたたらを踏む。そんな私の目に映る、少女の背から舞い降りたシーフのこげ茶のお下げ。

「ッセァ!」

 肘鉄を撃つような構えから外薙ぎの方向へと揺らぐ短剣。私の得物は重心を崩したせいで左手でしか握られておらず、到底刃での迎撃は間に合わない。相手の短剣は幾度もの血で汚れたせいか錆付いているのが肉眼でもはっきりとわかるとはいえ、素手で受け止めようならばまず間違いなく私の右腕が裂かれるだろう。それぐらい、やってみなくてもわかる。
 だから―――私は相手が短剣を握る右手の手首を、下に叩き落した。

「っ!?」
「相手が剣だけだと思ってると、怪我するわよ?」

 先の一撃で私の心臓を串刺しにするに違いないと思っていたのか。シーフの少女に剣士の少女両名は、今の一瞬の出来事に呆然と目を見開いているのが伺えた。少女が短剣を取り落とす、カラン、という乾いた音が僅かに響いた。
 左手で握っていた両手剣をタイルに深く突き刺し、開いた左手を少女の背へと持っていく。右手は相手の手首を下方向へたたいたまま浮いた状態。それを少女の首元に添えるようにスライドさせた。事ここに至り、ようやく少女が僅かに動きを開始する。片手剣を左手に握り締め、シーフの少女を助けるために三歩もない距離を駆けようと彼女の右足が地を蹴ったのが見えた。

 けれど、それは間に合わない。
 両の手を素早く、一閃させる。

「ッハァ!」

 ぐるん、と少女のお下げが縦方向に半回転するのを視界に納めながら、少女を床にたたきつけた。そのまま、後方に下がりつつ、すぐさま突き立てておいたツーハンドソードを手に取った。
 刹那、火花が散って私の両手剣と少女の片手剣が再び切り結んだ。しかし、目的はシーフの少女と私の距離を開かせることだったのか、鍔迫り合いの状態へと持ち込まず更に私の体を後方へ押すようにプッシュをかけた後、素早くまた後ろへと飛んだ。私もそれに逆らわず、大人しく後ろへ下がったまま正眼へと構える。

 先の投げは、得物を失ったときなどの咄嗟の対応を求められる場合のみに使う投げ技。広く普及している護身術に多少のアレンジを加えたものだったが、まったく何も準備ができていないシーフの少女には面白いほど効果を発揮した。背中からたたきつけたため、おそらくは肺の中の空気を根こそぎ持っていかれただろう。すぐに回復するとは思いづらい。

 剣士の少女は、シーフの少女をかばうかのように倒れた彼女の傍に立ちながら毅然と私を睨み付ける。蒼い長髪に、その蒼よりも更に澄んだブルーの瞳。幼い体躯に、彼女に不釣合いの刃先の長い片手剣を構えるその姿は、まるで妖精のようにすら見えた。私もあんな風に女の子然とした姿に生まれたら剣なんて手に取らなかっただろうか、なんて意味のないことがふと思考の片隅でちらついた。
 そして、同時に思う。まさか、ここに住まう実験体が言葉を解するなどと思っていなくて、当然自意識などないと思っていたのだけれど。シーフの少女は剣士の少女を助けようと後方から危険を顧みず攻撃を仕掛けてき、剣士の少女はそのせいで傷ついたシーフの少女をかばうかのように私へと再び剣を向ける。

 背丈といい、長い髪といい。
 今頃、家でのんびり試験管を眺めているだろう妹の顔が脳裏に浮かんだ。

 戦いづらいじゃないか、こんなの。まだ人外の魔物のほうが可愛げがある。いや、可愛げというか、心の割り切りというか。
 やってられない。被っているヘルムが、いつも使っているはずなのに何故か妙に重く感じる。

 私は深く、ため息をついた。

「……はー。やってらんないわ。去りなさい」
「……何?」
「去りなさい、と言ったのよ。それともまだやる?」

 剣を構えながら、挑発するように少女へと視線を当てた。剣士の少女は剣を下段へと構えながら、私の声を受けてスッと瞳を細くした。こちらの真意を読み取ろうとしているのか、それとも、単に負けず嫌いだから私の言葉が気に食わなかったのか。不意打ちなどするようなタイプには見えないが、突如の突撃に備えれるように私も剣を握る力を強める。

「っ、セニ、ア」
「トリスっ」

 セニア、トリス、というのは彼女たちの名前だろうか。自意識がある以上、名前を持っているのは仕方ないとしても、できるだけそれは聞きたくなかった。シグナルとして彼女たちの名前を認識してしまった以上、目の前にいる彼女たちを実験体として切り結ぶには少々精神的に堪える。
 だから、トリスと呼ばれた少女が歯を食いしばって腕だけで上体を起こしたのを見て、このまま撤退してくれればいいと切に願った。

「ごめ、しくじっちゃった……」
「大丈夫ですから、動かないで。あの方は私が相手します」

 しかし、そうはいかないらしい。トリスのほうは動けないとしても、セニアのほうはまだ私と剣をあわせるつもりのようだ。おそらく、もうじきトリスのほうも回復して再び私へと攻撃を仕掛けてくるだろう。先の奇襲でさえ破れたというのに、正攻法で二人してかかってこられてもしても負ける要素があまり見当たらない。相手の実力の底も、大体伺えた。

 仕方ない。殺すのは忍びないとしても、相手の得物を折るぐらいはしておかないと収拾がつかないようだし。
 私は嘆息して、諦めた。諦めと一緒に手加減を捨てた。

「――――そ。じゃあ、行くわよ」

 私はここに来て初めて、自分から踏み込みを行った。

「―――ッ!?」
「遅い、遅い遅い遅いっ!」

 正眼から上段。
 ついで下段への切り下ろし、そのまま返す逆袈裟、振りぬいた左上限からの横薙ぎ。相手は咄嗟に剣を向けて紙一重で私の斬撃を受けているものの、もはやその動きは本能レベルの動きとなっていた。完全に目がついていけていない。その証拠に、一度剣を受けるたびに少女の重心は崩れ、前へと踏み込んでいたはずの右足が後ろへと下がっていた。
 いきなり速力が増した私の動きに、少女は目を見開いて、それでも必死に食い下がろうと剣を構える。別に嘲笑う気も誇る気もないが、もはや反応しかできない彼女の型はもはや防御とすら呼べない。綻びがすぐに見えてくる。
 ほら、今私の袈裟切りを受けて――――剣先が、下を向いた。

「あ―――」

 ギィン、と音を立てて、彼女の剣は横へと弾き飛ばされた。呆然とした彼女の小さな呟き声は、主の手を離れた剣が壁へと突き刺さる音にかぶさって消える。もうどうしようもないぐらいのチェックメイト。少女に、私が体得しているような格闘術を持っているなどとはその矮躯を見る限り思い至らなかった。
 それを肯定するかのように、剣を弾かれた彼女へと剣先を向けた私の瞳を、少女は両の手を握り締めながら睨み付けてきた。否、睨み付けることしか、できないのだろう。私だって、伊達でロードナイトのマントなんか羽織っているわけじゃないのだ。

 さて、ここまできてどうしようかと悩む。
 相手の剣を奪えば戦意喪失して逃げ出すかと思いきや、私の考えに反して素手のままこちらを睨み付けてくるセニアという少女。背を向けるぐらいなら死を選ぶ、といった風情が漂ってきている。ロードナイトの癖に何処かの騎士団に所属しない、ある意味アウトローの私から見れば立派過ぎるほどの騎士道。いや、実力の伴わない騎士道なんて、単なる死にたがりの理由でしかないんだけど。
 困ったな、と思いながら、けれど刃を下ろすことのできない私は、ふと違和感に気づいた。

 私が相手のほうへ踏み込んだせいで、戦いの場所は最初に二人して居直った場所から離れている。けれど、離れてるといっても僅か数間だ。森の中で生きるハンターや、闇の中で殺すアサシンほどではないが、それなりに長い間あちらこちらの戦場の中で駆け抜けてきた私にとって、その数間は見落とすには狭い知覚範囲。
 今は私の後方に位置しているが―――それでも感じる気配が、ない。

 そこで倒れているはずの、シーフの気配がいつの間にか消えている。


 ―――チュィッ!


 高速で振りぬかれた刃を後ろへと振り向きながら捌いた私を、トリスは信じられないといった目で見つめていた。私だって今のは完璧に虚を突かれたし、ひょっとしたら間に合わないんじゃないのかという危惧もあった。けれど、一度受けた剣筋をこんな短期間で忘れるほど、私も馬鹿じゃない。気配が消えたことに気づけたのも僥倖だった。
 刃先を滑らせ、私は彼女の短剣を受けることより剣威を流すことを優先した。受け止めたとはいえ、私の体勢もあまり余り褒められたものではないのは確かだ。その体勢で無理に受け続けていれば、セニアからの追撃が捨てきれない以上、絶対にどちらかに遅れをとってしまう。
 思考と共に体はスムーズに動いていく。トリスも私の意図に気づいたのか―――自分から、更に地を蹴って突撃力を増してきた。突然の行動に私も不意を突かれ、横へと数歩弾かれる。その隙に、トリスはセニアへとたどり着いていた。

 またここで振り出しか、と私は両足に力を入れながらため息をついた。振り出し、といっても、若干スタート時は変わっている。相手の剣士は徒手空拳だし、盗賊のほうは投げのダメージが消えきってないのか肩で息が上がっている。
 対し、私はさほどこれといってダメージは受けていない。せめて一撃でも食らっていれば、毒か何かを仕掛ける隙もあっただろうけど。
 相手もこの不利を悟っているのだろう。セニアは相変わらずこちらを隙のない視線で見据えてはいるものの、トリスのほうは短剣を構えながら視線を私ではなく周りを伺うように動かしていた。きっと逃げるスペースを探しているのだろう。実直に生きるより、相手との力量を素直に測れるトリスのほうが真剣勝負のときは生き残るに違いない。先ほどの一撃といい、トリスのほうを先に戦闘不能にしておいて正解だったようだ。

「二度目よ。去りなさい」

 私の言葉に、ぴくん、とセニアの整った眉が動く。
 対し、トリスのほうは素直にセニアの袖を引いた。

「セニア、引くよ」
「でも……っ!」
「死んだら、セイレンさんが悲しむよ」
「……くっ」

 セイレン、か。
 また新しく出てきた人名に、私の心は更に憂鬱に染まった。剣士の形をした生体兵器に、シーフの姿をした生体兵器。それぞれに名を持ち、心を持ち、果てやその身を案じてくれる仲間さえいる。別に研究を進めることが悪いとは言わないけれど、興味すらないけれど、それならせめて、ロボトミー化するぐらいの情けをかけてやらなかったのか。

「私の名はイグニゼム=セニア。貴女の名は」

 悔しさを顔に滲ませて、自分のフルネームを晒した彼女は私を真剣な眼差しで見つめてきた。
 イグニゼム、セニア。姓も名もひったくれもない名前。そんな少女が、少しだけ―――。

「……フィーリル・アヒレスよ。覚えておきなさい」

 私の心に沸いたのは、憐憫か、同情か。
 二人がこちらに背を向け走り去っていくのを視界の奥に捕らえながら、暗澹とした気持ちで踵を返した。
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by Akira_Ikuya | 2006-10-17 14:39 | 二次創作 | Comments(0)


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