Scene5

 生体萌えスレに投下した五話の後半です。ちょっとばかり加筆修正気味。
 というか、このペースだとこれ以降の話、全部前・後にわけないといけない予感……?



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「あ、あははー……ご、ごめんね、兄さん。わたしってばてっきり」
「……」
「ま、まぁまぁ、ほら、エレメスお兄ちゃん。そんなに怒らないで。マーガお姉ちゃんの丸秘写真あげるから、ね?」
「……」

 ……その丸秘写真というのには、少し興味があるでござるな。
 流石のエレメスも、いきなり弓で攻撃されたりメマーナイトを脳みそにたたきつけられたり、それこそ目に入れても痛くないほど可愛がってる自分の妹に首筋にナイフを当てられた挙句、壁に体を押し付けられて笑えるほど心穏やかではないらしく、ぶすーっとした表情のまま腕組みをして椅子に座っていた。そのエレメスに対し、彼の妹であるヒュッケバイン=トリスと、ハワードの妹であるアルマイア=デュンゼは乾いた笑いをあげながら必死に謝っている。

 そんな光景を見ながら、セシルは二階にある応接間の椅子に座り、のんびりと紅茶を飲んでいた。スナイパーとしての彼女の目は、二撃目の剣戟が放たれた時点で襲撃者の正体がセニアだと気づいており、暢気に観戦を決め込んでいたのだ。どうせお互いすぐに気づくだろうと思って。
 それがまさか、セニアだけでなく他の人たちまで勘違いして襲撃してくるとは思いも寄らなかったけれど。

 ――――あ、違う。一人だけ勘違いじゃないヤツがいた。

「カヴァク」
「……ん? 何、ねーちゃん」
「最初の矢……あんた、わざとだったでしょ」
「……何のことだろ。ぼくはわかんないな」

 黒髪を揺らして、そしらぬ顔で紅茶をすするカヴァク=イカルス。何となく裏があるような気もするが、セシルにはそれ以上を澄ました自分の弟の表情から読むことが出来なかった。
 
「でも、軽い怪我でよかったですよね。ぼくのヒールでも回復がおいついたし……ただ、頭を強打されてましたから、ちょっとまだあまり動かないほうがいいですよ」

 マーガレッタの弟であるイレンド=エベシが微笑みながらエレメスに声をかけた。頭にささった矢傷や打撃傷などを癒したのは彼で、うっかりすると女の子と間違えられそうな可憐な笑顔を浮かべている。
 そんな笑顔を見せられてしまっては、ついついこちらの頬も緩むというもの。下手な女の子より可愛いから始末に終えない。
 その横で、ラウレル=ヴィンダーはまったくこちらに関心なさそうな様子で椅子に座っていた。姉であるカトリーヌと他人の出来事に無頓着なところはよく似ているのだが、彼の場合常にカリカリしてる印象がある。わかりやすい例で言えば、彼の目の前を蝿が飛んだという理由だけで、逃げ惑う蝿を追いかけて賞味一時間弱、ひたすらにソウル・ストライクを連打して蝿を追い回していたときもあったそうだ。
 あの状態で魔法をくらっていたら、きっとエレメスもその蝿と同じような末路をたどっていたに違いない。遭遇しなかっただけよかったというべきか。

「すみません、私が最初に勘違いしたせいで……」
「まぁ、もういいでござるよ。セニア殿に気づけなかった拙者にも非があるでござるし」

 まぁ、元よりそんなに怒ってはないでござるが。
 自分の正面に座ってひたすらに頭を下げ続けるセニアに、エレメスは諦め一つため息をこぼして、にへら、と笑顔を作った。

「それで、でござるが」
「はい」

 応接間には、セニア、トリス、アルマ、ラウレル、カヴァク、イレンドと、二階部に住まう六名全員が顔を出していた。というよりも、リーダー格であるセニアがラウレルとイレンドに招集をかけたのであるが。流石はセイレンの妹というべきか、責任感の強さなどから抜擢されたのかそれとも貧乏くじを引かされたのかは判別がつかない。
 どちらにせよ、齢十一歳にして、この二階部の面々の誰よりも常識人という点でいささかアレなところはあるけれど。

「それでは、セニア殿たちは誰も二階へ逃げた侵入者の姿を目撃してないのでござるな?」
「はい、エレメス様もわかるとは思いますが……私がずっとゲートのところで見張っていましたから」
「となると、話はまた厄介なほうへ転ぶでござるなぁ……」
「まだ三階に忍び込んでる、ってこと?」

 セシルの言葉に、エレメスが頷く。
 頷いた彼の表情は、僅かに憂いを抱いていた。

「そうでござる。まぁ、確かに、二階より三階にいてくれたほうが拙者たちは安心するでござるが……」
「む、兄さん。まだわたしたちのこと甘く見てる?」
「さっきワタシたちに負けたくせに、ねー?」
「ねー?」

 アルマがトリスに向かって首をかしげ、トリスも同調したように語尾を重ねて首をかしげた。

「あ、あれは不意打ちでござろう! 話してる最中にいきなりやられてもわからないでござるよ!」
「兄さん、暗殺者が気抜いちゃだめでしょ。もっとしっかりしてよ。ねー?」
「ねー?」
「うぎぎぎぎ」
「……とりあえず、エレメス。罠どうする?」

 妹二人にいいようにからかわれてるエレメスに流石に呆れたのか、セシルは既になくなった紅茶のカップをソーサーに置きつつエレメスへと声をかけた。エレメスも、両脇を固めて自分をからかってくる両名から右斜め前に座るセシルのほうを向く。

「実際、何処に隠れてるかわからんでござるからな……一応、念のためにゲート付近を重点に罠を仕掛けておいてもらえるでござるか?」
「ん、わかったわ。後でよさそうなポイント案内して」
「お手数かけます、セシル様」

 それじゃ、早速行くでござるか、とエレメスが立ち上がったところで、

「罠なんていりませんよ」

 エレメスの右隣から、そんな声があがった。

「え?」
「ト、トリス? どうしたでござるか」
「トリス?」

 トリスのいきなりの行動に、一番の友人であるアルマがまず一番に首をかしげた。トリスはできるだけ澄まそうとしているのか、妙に引きつった薄目のまま、セシルを見つめている。
 視線をめぐらせること数度。アルマはまず初めにトリスを見、エレメスを見、そしてセシルを見つめた。
 その表情と口調に何か察するところがあったのか、アルマはにやりと口元を緩ませて、立ち上がったエレメスを見合げた。

「そーですよー、エレメスお兄ちゃん。いざとなっても、ワタシたちでちょいちょいっと倒しちゃいますから」
「ねー?」
「ねー?」
「そ、そうは言ってもでござるな……相手は拙者たちから姿を完全に消すほどの手慣れでござるよ?」
「兄さんだって、さっき私たちに何も出来ずにぼろぼろになってたじゃない」
「ちょ、ちょっと二人とも、エレメス様に向かって何を言っているか!」

 いきなり突如として反発し始めたトリスとアルマに困惑を示すセニア。目上に対して敬意を払い、まさにセイレンのようになろうと日々切磋琢磨しているセニアにしてみれば、確かにアルマとトリスの言い振りはあんまりだったのであろう。そんなセニアの首根っこを掴んで、アルマはずるずると部屋の隅っこへとセニアを拉致した。
 さり気なく上背が十センチ近く違うため、セニアはほぼ抵抗という抵抗もできずにずるずると連れて行かれる。

「……何してるんでしょうね、あれ」
「ふん、知らん……興味ねぇ」

 その光景を微苦笑しながら見るイレンドに、言葉どおりまったく興味なさそうにお茶を飲むラウレル。カヴァクは「早く部屋に帰りたいなー……」などとこぼしながら天井を見上げていた。
 やる気の欠片もない男衆三人組である。

 そんな男衆三人と、当事者であるトリス、そしてエレメスとセシルの二人の合計十二の瞳に晒されながら、アルマはこそこそとセニアに耳打ちを数度した。

 アルマの耳打ちにはっとした表情を見せて、こくこくと頷いていたセニアは、合計十秒もかからずアルマと一緒にテーブルへと戻ってきた。皆の奇異の視線が集まる中、セニアは小さく「こ、こほん」と咳払いし、

「エレメス様、もう少しの間……自分たちに二階の警備を任せてくれはしませんか?」
「ちょ、ちょっとセニアまで!? それ、どういうことかわかってるの!?」

 セニアの言葉、それはつまり、二階部の総意として受け取られる。
 反対するとは露とも思っていなかったセニアにまで必要ないと言われて、今まで黙っていたセシルもさすがに慌てたように声を上げた。

「はい、ですが……普段から来てくださっているエレメス様ならいざ知らず、セシル様にまでご迷惑をかけたとなれば、私が兄上に合わせる顔がありません」
「……ぅ」

 それを言われては、流石のセシルも言葉に詰まった。
 セニアの兄に対する憧憬は、もはや恋心と言っても過言ではないことを彼ら十名は知っている。気づいていないのは、兄であるセイレンと、本人であるセニアぐらいなものだ。
 だからこそ、二階の不手際は自分の不手際と考えるセニアは、そのことをセイレンに知られてほしくはない。たとえ既に知られているとしても、自分の手で挽回したいと強く願う。それが、愚直なまでに一途なセニアの本心。

 と、言ってしまえば綺麗な話なのだが、

「……うわぁ、やっるー。セニアちゃん。意外と役者?」
「……アルマ、手伝ってくれたのはありがたいんだけど……何も、セニアまで巻き込まなくたって」

 ヒソヒソと、誰にも聞こえないように喋ってるこの二人の存在でもはやぶち壊しである。
 だが、そんな裏の背景を知らないセシルは、うーんと悩みながら、片手に持っていた罠をじゃらんじゃらんともてあそんだ。

「とは言っても……ホントに大丈夫なの?」
「はい、私たちで何とかして見せます」
「それに」

 セニアの言葉に続いて、トリスが、キッ、と、セシルのほうを見据えた。

「あなたに助けてもらうほど、わたしたちは弱くないです」
「……っ!?」

 自分よりいくつか下のはずのトリスの視線に、セシルは何故か少し動揺した。言葉が言葉だったからかもしれない。けれど、その言葉には、拒否以外に何か別の感情が篭っている気がしてならない。
 何か、絶対に自分には負けたくないという、強い意志。競い合うべき対象を挟んだ、自分と等位置からの宣戦布告。

 しかし、悲しいかな。それが何かを読み取れるほど、セシルは精神的に大人ではなかった。

「な、何ですって!?」
「兄さんがちゃんと定期的にここに来てくれるから、あなたの手を借りるまでもないといったんです。セ、シ、ル、せ、ん、ぱ、い」
「ちょっとトリス、あんた、いつの間にそんな口利くようになったのよ」
「別に、いつもの口調です。セシル先輩こそ、いつもそんなに眉間に皺寄せてましたっけ? 口元にまで皺が増えてしまいますよ」

 ばちばちばちっ、と、もはや物理的な火花さえ散らしていそうなその二人の間に挟まれ、さっきから口を挟む隙間さえなくなってしまったエレメスは、あわあわと視線をめぐらせた。
 しかし、アルマとセニアからは綺麗にスルーされてしまい、男衆三人は火花が飛んで来ない限り無関心を決め込むらしく、イレンドはマーガレッタによく似た笑顔を浮かべてはぐらかし、ラウレルは視線が合うなり物凄くえげつない形相で睨み付けてきて、カヴァクに至っては「知るか馬鹿」と言わんばかりにスルーされる。以前からなんか妙にカヴァクが自分に対して冷たいとは思っていたものの、こういうときぐらい助けてほしいものであった。

 そんなエレメスをほうっておき、二人の舌戦はヒートアップしていく。

「何よその言い方!? 自分で先輩とかあたしに向かってつけるなら、ちゃんと敬意払いなさいよ!」
「払っていますよ? いつもと同じ口調じゃないですか。それに……」

 トリスはセシルを見つめ、否、セシルの一点を見つめて言葉を切った。急に言葉を終わらせたトリスに違和感を覚えたセシルは、トリスの視線を追っていき――――トリスの視線が、自分の胸部に言ってることに考えが至った。
 セシルが気づくまで待っていたのか、トリスは満を持して言葉を続けた。

「どっちが年上か、ぱっと見はわからないですもんね?」
「む、胸のことをいうなー!?」
「逃げよ、トリスちゃん!」
「ん!」

 明らかに勝敗を決した想定を見せた舌戦は、横からトリスの手を掴んで一目散に応接間を飛び出したアルマによって終わりを告げた。トリスもアルマの手を握り締めて応接間から出て行く。「ばいばい、また明日ね、兄さん!」と言うのは、彼女なりの勝鬨だったのだろうか。セニアはそんなトリスのことを、少しだけ羨ましそうな表情で見つめていた。
 しかし、勝者であるはずなのに。
 握ったトリスの手が僅かに震えていたのを気づけたのは、おそらく、アルマだけであったろう。

「あ、あ、あいつはー……っ!」
「トリス、いったいどうしたでござろうか……いつもはあんなとげとげしくないでござるのに」

 まったくトリスの気持ちを汲めない朴念仁のエレメスは、怒りに震えるセシルを見ながら不思議そうに首をかしげた。男衆三人が揃って「わかってないのはお前だけだ」という感想を三者三様の言葉で浮かべてはいるが、誰も口にしないあたり油と火の原理についてよくわかっているらしい。
 今余計な言葉を言うと、まず間違いなく、セシルの怒りの矛先が飛んでくる。

「まぁ、セシル殿……そういうわけでござるから、帰るでござるか」
「今度逢ったら絶対ただじゃおかないんだからっ!」
「わかった、わかったでござるから。弓を収めるでござるよ!」

 約一名、油と火の原理についてまったくわかってないござる言葉を多用するアサシンクロスは、見事に油を注いでしまいセシルの怒りを物の見事に着火した。セニアとイレンドが慌てて火消しに走り、カヴァクはいい気味だとぼんやりとその光景を見つめ、ふと視線を横にずらすとラウレルは既にいなくなっていた。
 どうやら、こんなくだらない茶番を見せ付けられていらいらし始めたらしい。ここで暴れ始めない辺り、一応はエレメスたちに敬意を払っているのかもしれない。
 自分も部屋に戻るか、と思って席を立ったカヴァクは、目の前で弓を振り回す自分の姉を見て、そういえば、と声をかけた。

「あー、姉ちゃん、ちょっといい?」
「大体、ほんとあんたはいっつも……ん、何、カヴァク?」

 怒りの矛先は完全にエレメスへとベクトルを変えており、何故か言われもない説教を正座しながら聞いていたエレメスは、普段は自分に冷たいカヴァクが助け舟を出してくれたことに少しだけ胸を安堵した。
 だが、エレメスに対してそんな気遣いをしたつもりはなく、むしろもっとやられてろと思ったカヴァクであったが、応接間の隅に立てかけてあった自分の弓をセシルの元と持っていく。

「ぼくの弓なんだけど、ちょっと弦のところが緩いんだ。調整してくれない?」
「え、弦が? ……あ、ほんとだ。ちょっと緩んでる。あんたいつもどんな使い方してるのよ?」
「別に普通だよ。少なくとも、ねーちゃんみたいに振り回したりなんかしない」
「あんたね、治してもらおうっていうなら、言葉ぐらい選びなさいよ」

 弓を手に取り、ぎゅっ、と弦を引き絞っていたセシルは自分の弟の言葉に苦笑する。
 そして、弓の上の部分で止められていた弦止めを外し、調整し始めた。

「ハワード殿のところに持っていかないのでござるか?」
「んー……ハワードは鋼専門だからね。こういうのは弓師のあたしのほうが専門なのよ」

 その動作を後ろから覗き込んだエレメスに、セシルは手を止めることなく返事をする。

「それに、自分の一人だけの弟のだもん。直してやりたいっていうのはあるかな」
「それはいいことでござるなぁ。拙者もトリスの武器をよく手入れしてやってるから、気持ちはわかるでござるよ」
「そうそう、それに――――」


 ジ、ジジジ、ジジジジジ。
 ――――まぁ、そんなにアレな話でもないから。


 ジジジジジジ、ジジジジジジ
 ―――ただ、一人っ子だったから甘やかされてね。何不自由なく暮らしてたんだけど……気づいたら、ね。


 ジジジジジジジジジジジジジジ
 ――いっぱい色んなものがあったのに、もうこれだけしか遺ってなかったの


「―――っ」

 言葉を続けようとしたセシルの頭に、何か、ノイズのようなものが走った。思わず、もっていた弓を落とし、調整の途中だった弦が張りを失って床へと垂れる。
 何か、言いようのない矛盾ともいえるような、齟齬とも言えるような、何かわからないモノが心の中を一陣の風と共に駆け抜けた。それが何か、わからない。
 ただ、何かが上塗りさえる感覚が頭に残る。コールタールの中に埋められたような、妙な息苦しさ。

「……ねーちゃん?」
「セシル様?」

 セニアとカヴァクの声で、はっ、と、意識が元に戻る。別に熱いわけでもないのに、何故か背中は汗でぐっしょりと塗れていた。
 汗でぬれた肌着が、少しだけ冷たく、それが自然と冷静にしてくれる。

「な、何でもないわよ。少し、めまいがしただけ」
「いつも怒ってるからでござるよ、少しは落ち着いたほうがいいでござ――――」
「うるさいっ!」
「ぐぅっ!?」

 セシルの右ストレートがいい具合にみぞおちに決まって、情けない声を上げてその場に沈没するエレメスに、カヴァクは少しだけ唇の端で笑みを作った。

「……ふぅ、本当、飽きない人たちだなぁ……」

 そんな中で、小さくため息。
 何はともあれ、ブラコン、シスコンというのは大変なんだなぁ、と、一人さり気なく全ての情景を理解していたイレンドは、エレメスに向かって同情のため息を、吐いた。

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by Akira_Ikuya | 2006-09-05 11:00 | 二次創作


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