Part4-Scene4

 Part4のLastSceneです。Scene3と共に雛形丸投げVerなので、多分ちょこちょこ改訂加えていきます。



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 ケルラソスが少女の家にたどり着いたときは、もはや何もかもが手遅れだった。
 リヒタルゼンにある研究所からすぐに町へ出、近くにいたプリーストにワープポータルを出してもらいジュノーへとたどり着いた彼の目に映ったのは、未だ炎を巻き上げて燃える半倒壊した少女らの家と、消火活動に死力を振り絞っているウィザードたち。
 そして、野次馬なのか、それとも消火活動を手伝っているのか、傍目には判別つかない町の住人たちだった。

 一瞬の間茫然自失していたケルラソスであったが、すぐさま我に帰ると、近くにいたウィザードの襟首を掴み、ケルラソスに向かってウォーターボールを唱えさせた。
 このスペルは、水源を利用し水の礫を敵にぶつける呪文であるが、消火活動の場合はこの水泡を離散させ、広範囲に降り注がせることができる。それを応用し、ケルラソスの周りに薄い水の防火服を作らせた。
 本当はセージなどにエレメンタルコンバーターを頼むのがよかったのだろうけれど、正規の賢者はこんなところに狩り出されはしないだろう。

 ケルラソスは、呪文が終了したと知るや否や、周りの制止を振り切って燃え上がっていた家の中に単身で駆け込んだ。
 周りの人々の話では、中にいる二人はまだ避難していないらしい。いや、避難などできるはずがないだろう。おそらく、実験の失敗が原因だ。

 だとすれば、災厄の渦中にいるのは間違いなく、少女であり。
 その少女を見捨てることを、姉ができるはずもないだろう。

 少女に預けた賢者の石。
 リヒタルゼンにある生体研究所から裏で回してもらった代物。解析しようにも自分たちでは歯が立たず、誰もが認める才能を持つ少女に託した。

 それが、いけなかった。
 周りで盛大に火花を散らしながら壁を燃やし続ける炎を意にすら介さず、ケルラソスは大声で少女たちの名前を呼びながら探し続ける。

 ケルラソスの脳裏に、当時のことが思い浮かぶ。あの時、彼に賢者の石を渡した男の、にやついた顔。
 彼は、おどけるように、嘲るように、学者である彼に向かって、こう言ったのだ。

『いいかい。愚かな錬金術師の君。これを研究しようなんて考えちゃいけないよ。これを現実のものしようなんて考えちゃいけないよ。ましてや、コレを使ってはいけないよ』

 道化のような仮面をかぶった、ふざけた口調を思い出しながら、ケルラソスはそう広くはない家を探し続ける。
 もはや家全体が炎上しているため、何処が出火地点かわからない。しかし、これが、実験のせいで引き起こされた爆炎ならば。

『ましてやましてや。コレを、エンブリオと融合させようなんて考えちゃいけないよ。植物に肥料を与えるように、人に薬を与えるように、エンブリオにコレを与えてはいけないよ。植物に塩酸を与えるように、人に毒を与えるように、エンブリオにコレを与えてはいけないよ』

 半分以上崩れた扉の取っ手を手に取った。家の再奥、少女の研究室。
 金属でできた取っ手は、周りの熱の影響を受けて焦げ付くように熱かった。思わず悲鳴をあげる。少なくなっている酸素が、更に減る。

『ならば、何でこれを君に預けるのかって? ふふふ、わかってないなぁ』

 それでも、彼は、歯を食いしばりながら、扉を蹴り開けた。

『全てが嘘だからさ。う、そ。そう、全てでたらめだからだよ』
「あははははははは、はははははははははははははははははははははっ」

 そう、全てでたらめであってほしかった。
 目の前にある現実が、全てでたらめであってほしかった。

「フィ、フィー………ア」

 ケルラソスは、呆然と、眼前で大口を開けてけたけたと笑い崩れる少女を見つめた。その後ろには、どんなモンスターにも該当できない、大きな翼を広げた鳥がその場で羽ばたいている。

 ばさり、ばさり、と、その鳳凰とも言える鳥が巻き上げる羽が、少女、フィーアの目の前に横たわる少女の体の上に舞い落ちる。
 その少女の無残な体を見て、ケルラソスは、また呆然と、名前を呟いた。

「フィーリル……」

 折れた鋼の大剣の横に、崩れ落ちるように倒れた少女の姉に駆け寄る。フィーアは、彼が来たことに気づかず、まだ笑い続けている。
 少女の下に駆け寄ったケルラソスは、思わず、彼女から視線をそらした。これは、酷い。

「おい、フィーリル、おい!」
「ケ………ル、ラ……」
「どうした、これはいったい、何があったんだ!」

 ひゅー、ひゅー、と、息がこぼれる音がする。
 命が零れ落ちる音が聞こえる。

「フィ、アは……あ………の、コフッ、子は」

 少女の顔を抱き上げたときに、一番先に目が言ったのは、彼女の瞳だった。直視するのすらためらうほど、無残な傷跡。おそらく、二度とその目に光を映すことはないだろう。
 周りが炎に包まれた中、少女のがらんどうの瞳を、朱色が照らす。

「……フィーアは大丈夫じゃ、だが、お前さんは……」
「わた、し……は、それ、よ……り、あの子……を」
「ああ、ああ、わかった」

 ケルラソスの心を絶望と後悔が埋め尽くす。
 この世に生を受け云十年、幼い頃から錬金術の世界に身を沈め、少女の年の頃には何枚も何枚も論文を書き、新しい理論を確立しようと躍起になっていた。けれど、自分の才能の限界に気づくのも、また、早かった。
 人並みの論文、人並みの理論。現実はシビアで、それでも、必死にあがいた。

 そして、人生そのものに挫折しそうなときに、とある男と出会った。
 長くわたる錬金術師の中で、唯一ホムンクルスの育成理論を確立させた男、ゾフィーア・アヒレス。周囲から天才と呼ばれ、誰もがなしえれなかった理論を確立した男は、その才能と比例して、寿命さえも短かった。

 早々に妻を亡くし、まるで運命に追いかけられるように研究を重ね続けた男は、死ぬ間際に、ケルラソスに幼い自分の子供を託した。
 片方は、妻によく似て、少し気性は荒いが面倒見がよく、何より優しさにあふれたフィーリル・アヒレス。
 もう片方は、少々気難しくて、それでも、溢れんばかりの父譲りの才能を持ったフィーア・アヒレス。

 学者としての自分の限界を見せつけられ、けれど、それよりも大切な二人を預かったケルラソス。
 それが、この結果を、招いてしまった。

 ケルラソスは、フィーリルの体を背負った。そして、未だに壊れたように笑い続けるフィーアを見つめる。
 フィーリルの体は、もうあと幾ばくも持つまい。早急に応急手当ぐらいは済ませない限り、刻一刻と、制限時間が近づいていく。それでなくとも、もう、この家自体がもたないだろう。急いで逃げなければ、倒壊に巻き込まれる。

 しかし、と、彼はフィーアの後ろにいる大きな鳥へと視線を移した。
 アレは、何なのだろう。ゾフィーアの残した論文には、ホムンクルスはせいぜい直径一メートルにも満たない、小さなモノとして遺されていた。しかし、あの後ろの鳥は、どう見ても少女の二倍近くの大きさがある。換気の目的で、おおよそ三階建てに当たる高さで造られたこの部屋の天井に届きそうなほどの、大きさ。

 まさか、これが賢者の石の副作用、なのか。
 賢者の石をエンブリオと配合させる。その結果、これが引きこされたのだろうか。あの道化は、嘘を―――、

『全てが嘘だからさ。う、そ。そう、全てでたらめだからだよ』

 ………全て、が。
 全てが、嘘だと言うのなら。まさか、あの言葉は、真実を。

「………フィーア、フィーリル、すまない……」

 言葉にすらならない、罪悪感。自分を殺したいぐらいの喪失感。
 だが、今は、それを感じていられる時間ではない。罪悪感を、喪失感を感じるというのなら。

「いかん、火の回りが……!」

 ケルラソスは、意を決してフィーアまで走りより、そのまま、腕の中に抱きかかえた。
 その途端、フィーアの目は光を失い、かくんとケルラソスの腕の中に崩れ落ちる。同時に、後ろで羽ばたいていた鳥の輪郭が大きく揺らいでいく。

「な、何じゃ……!?」

 輪郭が揺らぎ、半透明な光に包まれるホムンクルス。
 ケルラソスが愕然と立ち尽くす中で、その輪郭はどんどんと崩れていき、やがて、小さな鳥となって地面に横たわった。
 羽は小さく、まるで、食べ物をつめたハムスターのように膨らんだ頬。青い羽に覆われ、頬に反比例して小さな嘴。

「こ、これがあの鳥だったというのか」

 考えるときは、今ではない。今は一刻も早く、ここから逃げなければ。
 愕然とした面持ちで鳥を見つめていたケルラソスは、その鳥を拾い上げ、フィーアとともに抱きしめて部屋を後にした。
 背後で、たくさんのモノが燃える。研究資料、フラスコ、試験管、そして、少女たちが過ごしてきた、長い長い時間。
 それら全てが、燃えていく。崩れていく。否、もう、崩れ去ってしまった。

 ケルラソスは、泣いた。
 泣きながら、廊下を走りぬけ、家の外に出た。多くのプリーストが彼に駆け寄る中、彼は、プリーストたちに少女二人を預け、よろよろと、人の輪をはずれ、

「くそがあああああああああああああああああああああ!」

 天に向かって、慟哭した。




 扉をノックする音で、目が覚めた。

「どうぞ、開いてますよ」
「フィーリルさん、元気はどう? 包帯変えに来たわよ」
「毎日すいません」
「気にしないの、ほら、布団めくるわね」

 いつもと同じ声が聞こえ、フィーリルは横たわっていたベッドから身を起こした。
 近くに歩いてくる気配。そして、頬に当たる、柔らかい風の気配。

 ああ、もう、春なんだな。
 フィーリル・アヒレスはそんなことを思いながら、顔を窓の外に向けた。

「あら、急に動いちゃ駄目よ。包帯替えられないじゃない」
「あ、すいません。ちょっと……風が、気持ちよかったから」
「ああ、そうねぇ……もう、春だもんね」

 包帯が、顔から外される。目を覆っていた白い布が外され、それでも、フィーリルの目は春の気配を写す事はできない。
 僅かに鼻をくすぐる、柔らかい春の匂い。昔は、春は視覚的にしか捉えれることができなかった。

「あの子は……」
「え?」
「あの子は、元気でやっているでしょうか」

 フィーリルの世話を始めてもう二年となる、この年配の看護婦は、小さく笑ってフィーリルの頭を撫でた。

「大丈夫、きっと、元気でやっているわよ」
「……ええ、そうですね」

 新しい包帯が巻かれる。
 あれから、二年。季節は巡り、色々な季節を肌で感じ、それでも、大切なあの子の声が聞こえない。

「……元気、かしら。フィーア……」

 その呟きは、春の風が持っていく。




 あれから、二年。二年という歳月は、長いようで、彼にとっては短すぎた。
 ゾフィーア・アヒレスが確立したホムンクルス育成理論。そして、彼の娘が自らの精神と引き換えに確立させた、ホムンクルス進化理論。
 その二つの理論を、彼は昼夜問わず時間を惜しみ、完成させた。そして、幾度も危険な目に合いながら、実験を成功させ、理論を不動のものとした。

 好々爺した彼の表情は柔らかさを欠け、まるで修羅のように、夜叉のように研究に没頭した。自らを殺すように、自らをすり減らすように理論を確立させた。
 そして、今。また一人のアルケミストがホムンクルスの理論を身につけ、エンブリオを手に、彼の元を去っていった。

 これで、何人目の背中を見送ることになっただろう。
 世の中には彼が確立した理論でホムンクルスを扱う若者が増え、錬金術師の世界の中で、ホムンクルスの権威として彼の名は頂点を極めた。
 そんな名誉、彼は、地に叩けつけたくなる。

 二年。あれから、一度もフィーアと出会っていない。
 フィーリルとフィーアを助けた夜、フィーリルの峠を越えた報を聞き安堵した矢先に、フィーアが目覚めた。

 目覚めないことが、彼女にとって幸せだったのかもしれない。もしくは、周りの人々にとって、幸せだったのかもしれない。
 フィーアは、全てのことを、忘却していた。

 それでも、声を聞いたのだという。生み出すもの、クリエイターへと認められたと、フィーアは告げた。
 自分の名前すら忘れ、自分の姉のことすら忘れ、彼の名すら忘れた少女は、ホムンクルスに告げられた言葉は覚えていた。
 ケルラソスは、その言葉を聴き、泣き崩れた。泣き崩れ、それでも、少女に、ゾフィーア・アヒレスに娘を託された男として、名前を授けた。

 彼女の父親と同じ、ゾフィーア・アヒレスという名前を。
 そして、少女が彼の元から姿を消し、二年。彼女の消息を、風の噂で聞く日々が、ただ過ぎていく。


 ゾフィーア・アヒレスのホムンクルスの名前は、彼女が、「フィーリル」と名づけたという、噂だけを。
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by Akira_Ikuya | 2006-07-09 14:49 | 二次創作 | Comments(4)
Commented by 凶月 at 2006-07-09 20:29 x
 今1から4まで一気に読んだよー。

 シーン3の最後、声が聞こえたあたりがすごいかっこよかった。


 ていうか、全文読んでて、やっぱりあきらんすげーとか思ってしまった自分が悔しいと言うか。自分も精進せねばと思うわけですね。マジで。

 ぱわふるなおねーちゃんはいいと思います。
Commented by at 2006-07-10 09:00 x
>つっきー
ほめても何もでませんy(PAN
さておき、俺ぐらいのレベルの人ならあっちこっち日本全国津々浦々腐るほどいるのですよ。だから精進しないといけないわけで!
それでも素直に受け取っておきます。ありがとー(*ノノ)

あと、ぱわふるなおねーちゃんは国宝に認定すべきだと思うんです、うん。願望混じりすぎとかいうな。
Commented by ntowa at 2006-07-11 11:32
ぱわふるなおねーちゃんは国宝に認定すべきだと思います。

おねーちゃあああん。・゚・(ノД`)・゚・。
Commented by at 2006-07-11 11:48 x
おねーちゃーん。・゚・(ノД`)・゚・。
っていうか、やっぱりおねーちゃんが一番人気ですか、そうですか。
次は何の話投下しようかしら。フィンかアリサか……。


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