Scene24

 書き溜め分が完全になくなりました。もはや自転車操業。
 後2話で終わりにするか、それとも次でラストにするか決めてないため、クイックリンクの予告はなしになります。



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 一方その頃。

「ラウレル、そこ右だって!」
「お前さっき左って言ったろ!?」
「今は右なんだって! ほら次くるよ!」
「っぁあああ、もうわけわかんねええええええ」
「って、うぁああ、無理に引っ張らないでー!?」

 手に持っていた掌より少し大きい茶色い小型端末を、あっちこっちに振りながらラウレルは絶叫した。その小型端末から伸びたコードはカヴァクの部屋で常時駆動している端末へと接続されており、ラウレルが引っ張っているせいでそのコードは限界ギリギリまでぴんと張り詰めている。ラウレルが右へ動かせばカヴァクが悲鳴をあげ、ラウレルが左へ動かせば小型端末をもぎ取ろうとカヴァクがラウレルの腕へと迫る。
 カヴァクとラウレルの前に鎮座しているモニターでぴこぴこと点滅を繰り返していたカーソルは、おどろおどろしいまでの数の赤や青の光に取り囲まれてぷちっと潰されていった。モニターに踊るゲームオーバーという文字列を睨みつけ、ラウレルは目の前まで迫っていたカヴァクの顔にコントローラーを投げつけた。潰れた蛙のような声を出して、カヴァクがその場にひっくり返る。

「っつーか何だよこのゲーム! 何処へ逃げても攻撃飛んでくるじゃねぇか!」
「こ、これはそういうゲームだから。それを避けなきゃいけないんだよぅ」

 鼻頭に当たったのか、若干上ずった声で返答しながら身を起こした。幸いコードはまだ繋がっていて、今度はカヴァクが小型端末を手にとって、二つあるうちの右側のボタンを押す。右手で二つのボタンを、左手でIの字のようにしてくっついている操作バーへと添える。軽やかにボタンを叩く様は凄く自然に見えて、それだけカヴァクがこのゲームをやり慣れていると見て取れた。
 ふん、と面白くなさそうに鼻で空気を抜いて、カヴァクが操作する人型のカーソルを目で追う。上下左右、あちらこちから飛来してくる光の弾をすいすいと避けて、あるいは、人型のカーソルから出てきた同じ光弾で相殺しながら、淀みなく奥へ奥へと進んでいった。
 先程自分が詰まったところを一度のミスもなく呆気なく突破され、ラウレルは後からカヴァクの頭を何となく小突いた。「あてっ」と小さい声が上がったものの、カヴァクの瞳はモニターから離れない。操作カーソルは縦横無尽にモニターの中を駆けずり回り、結局一度も被弾せずにそのステージをクリアしていた。

「ま、ざっとこんなもんだよ」
「お前どんだけやりこんでんだよ、動きがキモいぐらいありえねーぞ」
「あるぇ、ここってぼくを褒め称えるシーンじゃないの?」

 得意げに横を振り返ったカヴァクが見たのは、ゴミ袋の中にたまった生ごみを見るかのような親友の睥睨だった。おかしい、今のように軽やかな回避テクニックを見て何故賞賛されない。何故賛美されない。本気で首をかしげているカヴァクに、ラウレルはもう一度、頭を引っぱたいた。

「ラウレル、きみの愛が痛いよ」
「お前のさっきの手の動きと目の動きのほうがイタいわ。なんつーか、軽い気持ちで手を出そうとしたおれがアホだったわ……」

 神と崇めたまえ、とけらけらと笑うカヴァクに、はいはいとラウレルは呆れながら返して小型端末を手に取った。モニターの表示画面は一番初めのステージセレクト画面に戻っており、そこから画面を少し遷移させて攻略難易度の欄を見る。「神」というよくわからない抽象的な難易度表示をぐりぐりと操作し、イージーへと書き換えた。カヴァクがバカなら、このゲームを作った奴もバカだったのか。そんなことを心中で吐露し、モニターへと向き直る。
 操作カーソルを上下させ、迫り来る光弾を打ち落とす。先程のように三百六十度全方向から弾が飛来するなんていうむちゃくちゃなことはなく、今度はちゃんと弾の発射位置さえ目視できれば何とか避けれるタイミングだった。レバーを操作してカーソルを動かし、間に合わないものは右のボタンを押してひたすらにかき消していく。
 口では何だかんだ言いつつも割と一生懸命になっているラウレルを見て、カヴァクは少しだけ笑った。特に邪魔もせず、ラウレルの隣に座り込んで、彼の操作するカーソルの行方を見守る。

 ラウレルの操作カーソルが中盤を越えた。それまでに数度やり直してはいるものの、一番初めのときのように端末を振り回したりはしていなかった。
 モニターの中の光の点滅に慣れてきたのか、ラウレルの瞳は最初ほど険しくはない。手の動きにも、少しは余裕を取り戻せてきた。

 そんな中で、ラウレルは、ぼそりと呟いた。

「トリス、心配してたぞ」

 モニターの脇についているスピーカーから、そのステージの番人が現れる音楽が流れてきた。カヴァクがプレイしたときは一瞬で押しつぶされていた番人だったが故にまともに聞くのは初めてだったが、操作カーソルから放たれる光弾の音が聞こえる程度の静かな音楽で、それ故にラウレルの声はよく通った。カヴァクはその声に取り立てて反応を示さず、ラウレルも深追いはせずに静かに両の手を動かす。静かに、生唾を飲み込みながら。
 カタタタ、とボタンを連打する音が響き、モニターの中を光弾の雨嵐で埋めてくる番人に光弾を浴びせていく。相手の光弾を避ける姿も、少しだけ様になっていた。

「……」

 派手に画面が点滅し、ステージクリアの文字が躍る。ラウレルの顔を照らすその光源は、何処か寒々しく感じた。
 次のステージへと進む選択肢が表示され、ラウレルはそれをセレクトする。モニターの中の画面が遷移し、彼にとっては見たことがないエリアが広がった。

 ラウレルの横顔を見ていたカヴァクは、小さく目を閉じて、少しだけ息を吸って、

「ねぇ、ラウレル」

 彼の名前を、呼んだ。

「んだよ」

 画面を見ながら、ラウレルは短く答えた。
 飛来する光弾の斜線が読めない。ジグザグに進む光弾をかろうじて避け、その後からまっすぐにレーザーのように飛んでくる光の弾を掠めるようにして進んでいく。先程までのステージに比べると精彩を欠く動きだが、ラウレルはそれでも無理やりプレイを続けた。視線は、モニターのほうを向いたままで、けれど、明らかに意識はゲームからは外れていた。
 ほとんど反射で操作カーソルを動かして、紙一重でステージを進めて行く。手が思うように動いてはくれない。緊張している、と、気づいたのは、ステージ半ばで手に入れたアイテムを使うために左ボタンを押そうとしたときに親指が動かなかったときだった。
 モニターの中で、ラウレルの操作していた人型カーソルが弾けて消えた。
 そして、それを同じくして、カヴァクが再び口を、開いた。

「もしかして。もしかして。ラウレルきゅん、巨乳本ばっか見てたらほんとにトリスに惚れちゃった?」
「……………………ぁ?」

 たっぷり十秒ほど沈黙が続いて、絞り出した声は知らず、震えていた。
 わからない。目の前の馬鹿が何を口走ったのか、ラウレルにはわからない。理解することを脳が拒否していた。

 親友の秘め事に、土足で踏み込む。彼我の距離感を意識し、必要以上に干渉せず、ただ笑い合える関係を望んだ。それを、信条とした。
 その信条を否としてまで固めた覚悟を以って、自分は、この部屋に来たのだ。相手の心に踏み入ることで、もしかするとカヴァクが大切にしている何かを踏みにじることになるかもしれない、そんな不安や恐怖を捻じ伏せて、先の言葉を口にしたのだ。他でもない、自分の親友のために。その親友の、幼馴染のために。そして、自分のために。
 そのはず、だったのだが。

「……今、何っつった?」
「いやー、本命がセニアだってばれたくないがために頑張って巨乳モノばっか見てたのにね、その努力が裏目に痛いぼくの腕が完全に裏返って違う人体はそっちには曲がらないー!?」
「うっせぇもげろぉおおお!」

 ぷっつんと、頭の中で何かがキレる音がした。平常を装っていた心の上辺を剥ぎ捨てた。真正面からぶつかってもどうせ答えは聞けはしない、それならば、と、言えるタイミングを探して、答えを求めれるよう、辛抱強く答えを待っていた。
 それなのに、それなのに。

「てめぇはいっつも、いっつも、人が、おれが! トリスが! どんな想いで、どんな気持ちで―――――っ!」
「ぎぶ、ぎぶ! 待って、ラウレル待って! 今ね、音がね! ぼくの腕から音がね!」

 何だか、全てが馬鹿らしくなってきた。モニターでちかちかとコンティニーの画面が揺れている。
 放り投げたコントローラーを拾い上げ、ラウレルは荒く息を吐き捨てて再び画面へと向いた。

「死ね。ほんとに死ね。もげろ。っつか、お前も貧乳本ばっかじゃねーか、持ってんの」
「だってぼく、おっぱいなら何でも好きだもの。巨乳は見飽きてるし」
「摩り潰れろ」
「痛いっ!? ラウレルの愛が痛いよ! どんな想いでも痛いよ! って腕はまだいいとして首はまずいそっち回らない痛いいいいいい」

 何処かおかしくなった親友の態度。
 急に遠く感じるようになった距離感。

 それでも、現実は変わらず、自分の隣に親友はいる。馬鹿は馬鹿のままで、この場にいる。
 それで、いいじゃないか。もう、それでいいにしてしまおう。

 食堂で会話したときに見せたトリスの憂い顔を晴らすことはできないようだけれど、自分にできることはここまでのようだ。ラウレルはカヴァクの首から手を離して、心に深く楔を打ち込んだ。カヴァク=イカルスという少年は、こういう少年なんだと。深く心配する理由もなく、何かを考えながら、あるいは何も考えないまま、ただけらけらと笑う友人なんだと。

 そう思って、操作カーソルを動かしていたとき。

「まったくもー……ま、でも。トリスは上げないけどね。ぼくのだもん」

 打ち込んだ楔に、皹が入る。
 落ち着いた心が、再びかき乱される。

「……もっかい、言ってみろ」
「ん? んん? あれ、どしたの? バカみたいな髪型して」
「何意味わかんなく人を罵倒してんだよ、コラ」
「あいたたたたたたた」
「って! そうじゃねーだろ、聞けよ、人の話! お前、その気があんなら少しは安心させてやれよ!」

 思考がぐらぐらと揺れる。
 決めた覚悟を打ち砕かれて、それでも何とか落ち着けた心がまた咆哮を上げた。鋭利な瞳は今や完全に激昂し、カヴァクの服を掴んで立ち上がらせ、ラウレルの思考より早く言葉が滑りでる。
 自分の制御が、できない。何処か遠くから自分を見ているような感覚。ただ、怒りに身を任せて、それが行動として現れる。

「安心? トリスに? バカだなぁ、ラウレルきゅん。トリスはね。何も、不安なんか感じてないよ」 

 カヴァクが、くつくつと笑う。けらけらと笑う。瞳を歪ませて、醜く笑う。その笑みはとてもやり慣れた仕草で、カヴァクの言葉に凄く似合っていた。冷静さなど欠片も残っていないラウレルの怒りに、どぼどぼと油を注ぐ。
 激情という言葉に相応しいラウレルの本質を、カヴァクは笑いながら刺激していく。

「だって、トリスはぼくの全てを信じているもの―――そうだね、たとえば。五秒後に世界が滅びる、なんて誰かに言われて、ラウレルは不安になる?」
「何意味わかんねぇこと言ってやがる、お前、自分が何を言っているのかわかっているのか!」
「いいから。答えて?」
「っ! てめ、ふざけやがって!」
「い、い、か、ら。答えて?」

 今にも殴りかからんとするラウレルに対して、潜めもしない笑みのまま、カヴァクはラウレルの顔を覗き込んだ。
 ラウレルは、空気を思い切り飲み込む。肺に無理やり詰めた空気は、少しだけ、対話という概念をラウレルに思い出させた。

「ああ、もうっ! ねーよ、なるわけねーだろ! 信じられるか、そんな糞みたいな話!」
「ん、それと一緒。きみは明日のあなたを信じている。何の論拠も、何の確信も、何もかもが信じられる要素なんて欠片もないのに信じている。ね。きみは、信じている。面白いよね、トリスがぼくを信じていることに、何の疑問があるの?」

 思わず、殴りつけた。襟元を押さえつけていたままだったので、カヴァクの顔がぶれはすれど倒れこみはしない。
 ガッ、という鈍い音がして、カヴァクの頬にくっきりあざが残る。歯にでも当たったのか、右拳がじんじんと痛む。人を殴るということは、人を魔法で打ち抜くことよりもとても痛くて、いつも触れ合っていたスキンシップとは違って、心が酷く軋んだ。
 それでも。それでも、目の前の、親友は。

「信頼という言葉は、信じるという行為は―――どうして、こうも、曖昧で不完全で下らないんだろうね。きみは、なにを、信じているの? きみは明日のあなたのことを何も知らないのに」

 殴られた傷跡を覆いもせず、痛みで目を細めもせず。カヴァクは、柔らかい笑みのまま、最低な笑みなまま、言葉を続ける。
 その様は、何故か。

「――――」

 ――――バシンッ

 ラウレルは、自分の頬を、両の手で挟み込むように叩きつけた。
 対峙しているカヴァクの色の抜け落ちた双眸に、僅かに光が灯る。ラウレルは、臓腑の中で濁りきった空気を吐きつけるようにして、

「っぁああっ!」

 思い切り、声を出した。
 拳の痛みと、心の痛み。その二つの氷柱が、激情に燃やされ続けている思考を少しだけ冷却する。そのときに、僅かに見えた。ほんの小さな合図にしか見えなかったが、それでも、自分は、見つけた。
 飲み込んだ空気を吐き出す。悪態に乗せて、全てを心から掻き出す。

「くっそ、やっぱ駄目だわ。お前に主導権渡したら、駄目だ。返せ、会話はおれが進める」
「……うっわー。やっぱラウレル、バカだ。うん、髪型だけじゃなくて、バカだ」
「っるせぇ、てめぇが言うな。この糞バカ」

 首をこきんこきんと鳴らしながら、ラウレルは未だ自分の双眸に残る感情を奥底に追いやる。会話を最初から最後まで、覚えている限りでトレースしながら、わかりやすすぎるカヴァクの児戯に深々とため息をついた。そして、それに弄ばれていた自分が情けなかった。

「お前、おれをどうする気だった」

 こちらが対話の意思を見せたときは自ら引き、こちらが引いたときは尻尾を見せる。そして、それを捉えようとしたところで、再び逃げる。それの繰り返し。駆け引きとすら言えない、稚拙なレベル。冷静になって見返せば、本当に児戯にも等しい会話のやり取り。
 それでも、ラウレル=ヴィンダーという性格を知り抜いているカヴァクにとってみれば、その程度のやり取りで十分だったのだろう。現に自分はカヴァクの言葉に振り回され、弄ばれ、激昂し、簡単なトラップに気づけないほど、自我を削り取られていた。我を忘れ、牙を向き、カヴァクという餌に食らいついて怒りのままにカヴァクを、殴り飛ばした。
 ここまで意図的に会話操作しておきながら、何らかの意図がないはずがない。前髪に隠れた瞳で睨みつけながら、ラウレルは出来うる限りの静寂で心を冷却する。

 ギリ、と、歯軋りが鳴る。視線の先に移る、黒い髪に隠れるその顔。全ての笑顔を消し去った、まるで能面のようなカヴァクの顔。
 彼の口から告げられる言葉を、静かに待ち受ける。

 能面の口元が割れ、春の嵐が過ぎ去ったかのような空虚な言霊がこぼれた。

「……やっぱり、注意すべきはラウレルだったね」
「褒め言葉ありがとうよ。それとも、皮肉って言うべきか?」
「んー。うん、褒めてるよ。凄いと思ってる」
「だったら、ちったぁマシな顔しやがれ。死人のほうがまだいい顔してるぞ」

 廊下で見せた、あの違和感。騎士との戦い、その後の、あの笑顔。
 あからさますぎた日常からの変貌。まるで刷り込むかのように続けた、あの憎たらしい言葉。
 その全てが線に繋がる。


 ―――何処から、仕込んでいた?


「くそ、まんまと引っかかったよ。ああ、そうだよな。お前があそこまでおれに見せるなんて、普通に考えりゃありえねぇ。お前が、何の意味もなく、自分の行いを見せびらかすわけがねーんだ。ったく、本当、わかりにくいったらありゃしねぇ」
「酷いな。ぼくはラウレルに嘘なんてついたことないのに」
「ああ、そうだな。単に、何も見せてねーだけだ」
「……」

 カヴァクの口が閉じられる。彼の双眸は相変わらず何の感情も見せず、じっとこちらを見つめている。睨みつけるわけでもなく、探るわけでもなく、こちらを、ただ、見続けている。
 先程のやり取りで疑心暗鬼にならざるを得ないラウレルの心が警鐘を挙げる。飲まれるな、考えろと、警鐘を挙げ続ける。この探るような視線すらも、何かの仕込みなのだろうか。

 そうやって思わせることが既に罠で。
 いや、そうやって罠だと思うことが、既に。


 ああ――――。
 ―――めんどくせぇ。


 ラウレルは、心中で笑い飛ばした。

「だけどよ、おれはそんなお前の面倒を、見なきゃいけねーんだよ」
「……」
「トリスがお前を無意味に信じてるならそれでいいんだろうよ。んなもん知るか、あいつが心配してねぇって、お前が、おれの親友であるお前が言うんなら、そうなんだろう。一応、信じておいてやるよ。っつーか、どうでもいい。けどな」

 二人の、立場が逆転する。
 ラウレルは、先のカヴァクがやっていたように、カヴァクの双眸を覗き込みながら、口の端だけで笑みを作った。

「そんならそれで、おれがお前らの面倒見てやるしかねーだろ。お前がおれをどうしたかったのかは知らねーが、大人しくなんかしてやるかよ。言い包められたままなんかでいてやるかよ。お前のやりたいようになんかさせてやるかよ。明日のおれ? んだよ、そんなもん知りたいとすら思わねーよ」

 カヴァクが喋らないことをいいことに、ラウレルは言葉を続ける。
 カヴァクの瞳の奥を射抜きながら、ラウレルは、一度溶かして再度固めた心を、叩きつける。

「泣くなら、もう少し巧く泣きやがれ。わかりにきーんだよ、てめぇは」

 軽く握った拳で、カヴァクの胸を軽く、叩いた。
 よろり、とよろけたカヴァクを見もせずにラウレルは踵を返す。床に投げ捨てられた端末を踏まないように歩きながら、言うべきはことは言ったといわんばかりにローブをなびかせながら部屋を辞そうとして、

「ああ、そうだ」

 唐突に、振り返った。
 床に座りこんでいたカヴァクが、のろのろとラウレルを見上げる。

「お前が何企んでようが勝手だがな――――もう、お前に無関心でいるのはやめだ。こんなに気分悪くなるなら割にあわねぇ。いいか、覚えてろよ」

 赤髪をがりがりと掻き毟りながら、ラウレルは心底面倒くさそうに、どうしようもない程愚かで、どうしようもないぐらい放っておけない親友を見つめて、

「おれに何も教えないでお前がまたそうやって泣いてたら、また、殴る。ちゃんと今回は前置きしたからな」

 言い捨てるだけ言い捨てて、今度こそ、本当に部屋を出て行った。声が少し、上ずっていたけれど。それでも、カヴァクには笑う気にはなれなかった。笑いたいと、思わなかった。

「は、ははは、ほんと、バカ、なんだから、ほんと、う、に」

 それでも、笑おうとする。
 無理してでも、何をしてでも、笑おうとする。

 そうでも、しないと。

「――――――――縋っちゃいそうに、なっちゃうじゃ、ないか」
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by akira_ikuya | 2010-02-27 18:20 | 二次創作


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