Scene22

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Commented by ま。 at 2010-02-13 13:23 x
土曜日まで待ってたのに!このs(禁止語句が含まれています)
えびふらいぶつけんぞ(・ω・)っ
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 といわれたので、土曜日の夕方まで待ってみました。夕方っていうかもう宵か。
 そして次の話まだ書き終わってないので、次のはちょっと間が空くかもしれません。



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 静かな水音と皿と皿がこすれる音だけが響く厨房の中で、皿洗いに励む二人の少年少女。

「……」
「……」

 二人の間に取り立てて会話はない。かと言って、静寂の中に苛立ちも乾燥もなく、今流れている水のように本当にただ静かな空気。片方が皿を水洗いし、片方が乾布巾で拭って片付けていく。鼻歌を歌うわけでもなく、嫌々しているわけでもなく、さらさらと過ぎて行く時間、清流のように澄んだ空気。そんな二人としては、別にいつも通り、だと、いうのに。


 ―――パリン


「あ……」
「またやったの? 何か珍しいね、あんたがそんな割るなんて」

 乾拭きをしていたラウレルが皿を取り落とし、トリスが心配した表情で隣を振り向く。ばつが悪そうに赤髪をかきむしりながら、「うっせーな」と一言残して、言葉とは裏腹に存外丁寧に破片を集め始めた。大体大きな破片を集めて、テーブルの上に広げてあった布巾の上に乗せていく。そこには、既に三皿分ぐらいの陶磁器の残骸が集まっていた。

 ラウレル=ヴィンダーと、ヒュッケバイン=トリス。共通の少年を親友に持つ二人は、別にいがみ合うわけでも馴れ合うわけでもなく、普通に友人として交友を持ち、普通に腐れ縁として仲間意識を持っていた。カヴァクとラウレルの間に不動の友情が聳え立ち、カヴァクとトリスの間に恋人未満親友以上という曖昧の感情が巡っているとするなら、この二人の間に流れるのはただ一貫した共通認識だった。

 ――――あのバカの相手、お疲れ様。

 カヴァクに知られでもすれば最低だとか罵られそうではあるものの、それでも互いに愚痴を交わすことの数は少なくはない。二人の間に、カヴァクをネタにしなければ他に話の種がないと言えば、それまでなのだが。
 だからというわけではないけれど。トリスは、ラウレルの仕草の端々に気づくこともある。

「あのバカと何かあった?」

 トリスの何気ない問いかけに、ラウレルの動きが止まる。大体の皿の水洗いが終わったトリスは、洗った皿を水きり場に積み上げて破片拾いに合流した。その場にしゃがみこんで、ラウレルと同じ目線にあわす。

「あんたがそんな動揺してんの、あのバカ以外に訳はないだろうしね」
「やめてくれ、そんな気持ちわりぃ想像」
「あはは、まー確かに、何かホモっぽいよね」
「本気でやめてくれ」

 ラウレルはふいと顔を逸らし、黙々と小さい欠片を集める。でも何かあったのを否定はしないんだね、と、苦笑するトリス。指の先を切らないように注意しながら、破片を拾っていく。少しの間、また静寂が訪れる。けれど、一枚分の皿の破片など、二人で拾えばあっという間に終わってしまって。

 洗うべき皿もなくなり、破片の掃除も終わり、しかし、二人は去ることなく、ぼんやりと思い思いにこの場に残っていた。ラウレルは破片を集め終わった付近を来るんでゴミ箱に放った後、近場の椅子を引いてそこに座る。トリスは水瓶から二人分の水をコップに注ぎ、ラウレルの前に置いた後、自分も近くの椅子に座った。
 こういうとき、もう少し大人だったなら、ワインか何かを注ぐくらいの気遣いはできたかもしれない。それでも、自分たちはまだ少年少女とも言えるべき年代で。ならばせめて紅茶か珈琲でもいれるべきだったのだろうが、自分にそんな殊勝なスキルなどない。焦がした湯を飲ませるぐらいなら、大人しく水だけのほうがまだましだろう。ちびちびと水を舐めながら、そんなことを思ってぼんやりと肘を突いた。とりあえず、出て行けと言われるまではここにいてようと思う。
 カヴァクのことになるととんと子供っぽくなるけれど、この姉御肌に近いところこそが、ヒュッケバイン=トリスの本領であった。だからこそ、たまに嫉妬の対象となるラウレルとそれなりの交友関係を築けている、ともいえるが。

 そんなトリスの心遣いを振り払おうとはせず、ラウレルは腕組みをしながら目を閉じていた。目に浮かぶのは、


 ――――次に殺されるのは、ぼくかもしれないんだよ?


 そう言って、笑ったカヴァクの顔。その笑顔の向こうに霞んで見えた、歪んだ瞳で哂ったカヴァクの、顔。
 言われなくても、そんなことぐらいはわかっていた。いつ誰が、次の瞬間に殺されるともわからない。帰るべき場所が保証されている「人間」とは違い、あくまで、自分たちは。
 この生体研究所に住まう、自分たちは。殺されれば、そこで終わりなのだ。

 カヴァクの言うことはとても正しい。そう思う。間違えては、いない。正当防衛だ、と、自分たちは胸を張って言い張れる。人間たちには通らない理屈だけれど、それでも、ここに住むメンバー全員には、主張できる大義だ。
 だが、それで納得できるのならば、自分たちは今頃、殺戮マシーンとでも言うべき存在になっていただろう。冒険者たちに甘く、人間に対して全力を振るえず、不殺を心がけていたわけではないが、常に目標を追い払えればいいという位置に置いていた。それは決して明記された二階部のルールではないが、暗黙の了解とでも言うべき定義となっていた。

 それを、カヴァクは、唐突に、破り捨てた。

 破り捨てて、それをなお、自分が正しいと主張してきた。その意図が汲み取れない。重ねて言うが、理屈では正しいというのはわかる。生存本能に従うならば、それが正しいということは、理解している。けれど、納得できない。彼の突然の心変わりが、解せない。

「ちっ」

 問いただす、べきなのだろうか。
 しかし、ああやって笑うカヴァクが口を割らないというのは、今までの付き合いでわかりきっていたことだった。普段ならばどんなことでも口が軽くて信用のならない奴だが、笑顔を浮かべて道化師の仮面を被った親友を前にして、二階部の誰を以ってしたとしてもその本心を暴き出すことは出来ないだろう。
 それこそ、傍に座るこのトリスであろうとも。

「……なぁ」
「ん?」

 誰に対しても口を割らない、ということに、別に怒るべき要素はない。誰だって言いたくないことはある。誰だって、秘密の一つや二つは自らに秘めている。それを全て開け広げろというほど、自分は人に対して尊大ではない。
 でも、その秘密が、自分にとって大切な人を脅かすものだとしたら。どうしようもなくアホでバカで救いようのない、けれど大切な親友自身を害するというものであるならば。
 黙って静観していられるほど、自分は人に対して臆病でもない。
 親友の心に、土足で踏み込む。そのことに意を決して、トリスへと声をかける。

「あのバカ、何かあったか?」
「……え、あんたも知らないの?」

 自分の決意を軽く踏み越えて帰って来たきょとんとした声に、ラウレルは思わず肩を落とした。自分が駄目となると、とっかかりになりそうなのは後はトリスだけだったというのに、いきなり手詰まりになってしまった。彼女を責める心はないが、落胆は大きい。こうなると、後は真正面から突っ込むしかないわけ、だが。

「わたしも、あんたなら何か知ってるかなぁと思ってたんだけど……」
「お生憎様。っつか、おれは今日初めて知ったよ、あいつがあんなことを考えていたなんてな」
「あんなこと?」

 訊ねられ、言葉に詰まる。
 言って外堀を埋めるべきか、それとも、自分でもう少し探ってみるか。どちらも決して効率がいいとは言えないし、真相にたどり着くまでに何かしら取り返しの付かないことが起きそうな予感がする。コップを口元に運びながら、濡れた舌で唇を舐める。

「あいつ、今日、人を殺したよ」
「……」

 軽く、ジャブを放ってみた。
 実際に殺してはいない、死んではいない。それでも、あえてその言葉を使った。カヴァクが思っていたこと、考えていたこと、そして、行動したこと。それらに対し、この言葉が不適当だとは思わなかった。
 前髪に隠れた双眸でトリスの様子を伺う。トリスは何かを考え込むように口元に手を当てていた。こちらに特に視線を合わせようとはせず、何かを反芻するかのように目を閉じている。おそらく、今日からさほど遠くない日に、トリスもカヴァクと一悶着あったのだろう。
 あのバカは、本当に何やってんだか。ため息をついて、もう一口、水を運んだ。

 トリスがカヴァクのことを、親友以上に、幼馴染をはるかに超えるほどに想っていることは知っている。カヴァクもきっと、トリスの愛情にも似ている恋心に気づいているだろう。それでも、カヴァクはそれを一顧だにしない。そして、そのことも、トリスは知っていた。
 そんな微妙な、言うなれば危なげな立ち位置のトリスが、カヴァクのことに対して子供っぽくなることを誰が責められようか。

 一顧だにしないならしないでせめて、安心ぐらいは与えてやれよ。考えこんでいるトリスの真情を慮りながら、そんなことを遠く思う。

「そっか」

 それなりに長い沈黙の後、トリスが吐き出した言葉はそんな一言だった。
 特に続く言葉もなく、トリスは嘆息したかのようにずるりと姿勢を崩す。その様を見て、ラウレルは頭を抱えたくなった。

「ああ、もう、てめぇまで落ち込んでんじゃねぇ! 聞いてきた癖に何勝手に凹んでんだよ!」
「やー。流石にそんなヘビーなことになってるなんて、思わなくて。そっかぁ、あいつが、ねぇ」

 ひらひらと掌を振りながら、トリスは苦笑する。

「ちょっと、びっくりした。でも、うん。一番初めにやるならあいつかな、とも、ちょっとだけ納得するんだ」
「なんだよ、その嫌な信頼感は」
「そういうわけじゃ、ないんだけどね」

 口では反対しつつも、トリスの言いたいこともわかる。長い付き合いだからこそ、カヴァクの根っこの部分にある、得も言えぬ不気味な存在に薄々と気づいていた。
 カヴァク=イカルスという人間は、基本的に人懐っこい。というよりも、誰に対しても平等に相手をする。平等に笑い、平等に接し、平等におどける。それでも、その笑顔の裏側に何かがある、その裏側に、踏み込んではいけない、何かがいる。

 それに対して取った二人のアクションは、それぞれ異なっていた。
 そのことを知りつつも、それがカヴァクという幼馴染だと受け入れたラウレル。
 そのことを知りつつも、それをいつかは教えてくれると信じたトリス。

 そして、人を殺した、という、ラウレルの言葉。
 現場を目の当たりにしたラウレルは、だからこそカヴァクの異常さの度合いに気づくことができたのかもしれない。その隠された一面の、怖さとも表現しかねない、カヴァクの心の裏側を前にして、カヴァクの心に土足で入り込む決意を彼が固めたのは、それでも、とどのつまり、どうしようもないほどに彼がカヴァクの親友だからに他ならない。
 ラウレルの言葉を聴いて、その様をリアルに想像しながら、トリスはそれでも動かない。カヴァクの一面を怖さと取るならば、トリスの一面もまた、一つの怖さであった。彼女は、カヴァクの全てを、信頼している。盲目的に、信じている。自分には全てを教えてくれると、楽観にも似つかない信用を持っている。だから、カヴァクの身に危険さえ迫らなければ。自分の傍から、離れさえしなければ。
 別に、人を殺したところで、何とも思わないのだ。

 トリスも、ラウレルも、カヴァクのことを真に心から心配している。
 その事実だけが共通認識で、しかし、二人とも、お互いに取った道を知らない。
 ラウレルはトリスが、カヴァクのことを心配していると思っていたし、トリスもまた、ラウレルがカヴァクのことを信じていると思っていた。

 だからこそ、トリスは呆れたように笑みを残し。
 ラウレルは、心配して無理してるように笑うトリスに、話を振ったことを申し訳なく思った。

 そうして二人は、結局何一つ、カヴァクのことを知りえることなく話を終え、コップを流し台に持っていって部屋へと帰ろうとした。

「イレンドっ! いないっ!?」

 食堂の扉を荒々しく開け広げ、珍しく大声を上げたアルマイア=デュンゼがやってくるまでは。

「アルマ!? どうしたの、そんなに慌てて―――っ!?」
「……? なんだ、いきなり―――って、おい!」

 厨房の奥から食堂のほうへ出てきた二人は、写った光景に絶句した。
 アルマイアは小柄な体で、必死に一人の少女を支えていた。アルマイアの肩を借りながら、左足を血に染めたイグニゼム=セニアが足を引きずって食堂へと歩いてくる。形の整った眉を顰めながら歩く少女の姿に呆けたのは一瞬のことで、ラウレルはすぐさま我に返ってセニアのために椅子を引いた。

「アルマ、ここに座らせろ。そして布巾と水を頼む!」
「あ、うん」
「トリス! 何ぼうっとしてる! 早くイレンドを!」
「っ、んっ!」

 鬼気迫るラウレルの声に、弾かれたようにトリスは動いた。
 セニアの怪我は、苦痛の声こそ漏らさないものの傍目で見るだけでも重傷だ。出血の量も多い。しかるべき処置を施し、そして可能な限り早く、イレンド=エベシの回復呪文が必要だった。先程のアルマイアの必死な声も、道理がいく。結果としてイレンドはここにはいなかったわけだが、ならば探しにいくのは誰かというとそれは明白だった。この場にいる面子だけではなく、二階部通して一番動きが素早いのがトリスなのだ。
 茫然自失の状態から一瞬で脱却し、適切な采配を出す。沸点が低く怒りっぽい彼にとっては、とても似つかない所業、なのだけど。

「ラウレル、はいっ!」
「ちっ、スカートの部分から切られてやがる――――おい、セニア、ここ少し切るぞ」
「な、何をするのですか! 大丈夫です、痛くないですから!」
「何ナチュラルにインデュア発動してんだよ! いいから大人しくしてろ!」

 仲間と言えど、男の人の前でスカートを切られるとなれば、普通は抵抗する。もちろん抵抗してこの場を乗り切ろうとする。
 ラウレルに濡れた布巾を渡すと、アルマイアはそんなことを思いながら苦笑して応急箱を取りにいった。この少年にとってみれば、そんな抵抗など何の役にも立たないと知り尽くしているから。

「嫌です、駄目です! アルマイア、助けてください!」
「あー、無理。それ無理。ごめんね、セニアちゃん」
「アルマイアー!?」

 馬に蹴られたくないから。そんな締め言葉を心の中に隠しながら、包帯と消毒液を探す。後ろでは未だにセニアとラウレルがぎゃーぎゃー言い合っているが、アルマイアは、セニアが怪我を負ったときほどはもう心配していなかった。ラウレルが治療に当たるのなら、おそらく彼は全身全霊をかけてそれ以上の悪化をさせないだろう。変な信頼感と共に、まったくもって自分がこの場にいることが不正解のようにも彼女には思えてくる。きっと、トリスもそんなことを思っているだろう。アルマイアの心は「早くイレンドこないかなー」と不貞腐れかけていた。

「っていうか、お前怪我多すぎなんだよ! ちっとは考えて動け!」
「っ、痛いです、ラウレルっ! もうちょっと加減してください!」
「うっせぇ、痛くないんだろうが! だったら動くな!」
「インデュアするなと言ったりしろと言ったり、どっちなのですかあなたは!」
「いいから黙れ!」

 でもセニアちゃん、あたしに変わってくれとは言わないのよね。
 先程から心の中で独白を続けながら、アルマイアはちらりと後ろを振り返る。
 セニアの怪我は決して現実から目を背きつづけていられるほど軽くはない。とりあえず傷口付近の消毒はそろそろ終わっている頃合なのだろうで、簡単な治療キットだけでいいだろう。傷口凍結とか熱消毒とか出来る魔法使いはいいなぁ、などという若干現実逃避気味な感情を残しつつ、仕方なしに二人の元に戻る。

「あー、はいはい。ラウレル、あんまりセニアちゃんを可愛がらないの」
「っ!? ざけんな! 誰がこんな無茶ばっかりする奴にそんなことするかよ!」
「あなたが言いますか、あなたが!? って、痛っ、痛い、ですっ、ラウレル!」
「うっせぇ変な声出すな!」
「……男の子って大変ねー」

 いつぞや感じた、母親的な思考がふとアルマイアの頭をよぎる。どうしてここの仲間たちは、自分にこうも年寄りめいた考えを覚えさせるのだろうと、少しだけ理不尽なことを彼女は思った。
 スカートが切り裂かれ、綺麗なおみ足をさらけ出しているセニアに、それをまるで宝物のように扱うラウレルを見ていると、何だかもう、本当に居たたまれない気持ちになってくるのだった。治療キットをラウレルに放り投げるように渡したアルマイアは、セニアの隣に腰を下ろしてやれやれと息をついた。

 セニアがここまで傷を負った相手と交戦したのは、この食堂を挟んでちょうどイレンドと反対側の部屋だった。アルマイアを庇うためにセニアが足に重症を負ったときは、本当に肝が冷えたものだ。セニアの生命の危機を感じたとすら言ってもいい。ここにイレンドがいてくれれば、と思って、神に祈る気持ちで駆け込んで来たのに。逼迫したあのときの自分の気持ちを返してほしいと、しみじみと嘆息した。

「アルマ、ラウレル! イレンドつれてき……た、わ……よ?」
「……本当に僕必要だったんですか?」

 アルマイアがこの部屋に駆け込んできたときと同じような鬼気迫るトリスの声は、しかし、食堂の光景を視界に入れるや否やどんどんと尻すぼみになって、終いには疑問系にすらなってしまった。トリスに若干遅れて到着したイレンドも、彼女の背中から覗き込んだ和気藹々とした痴話喧嘩に戸惑いの声を上げる。
 その二人を見て、アルマイアはもう知らないとばかりに机にだらりと寝そべった。

「うん、必要、ほんと必要。主にあたしの話し相手に」
「えー……何これ、どうなってんの?」
「イレンド! いいところに来てくれました! 助けてください!」
「イレンド! 早く来てくれ!」
「あ、はい。今行きます……って、うわ、酷い怪我じゃないですか!?」

 イレンドが来てくれたおかげで、もう完全に心配することもなくなった。ぼんやりと糸目になりながらアルマイアはだらだらと机の上で眺めていた。その傍らにトリスが何ともいえない表情でやってくる。

「ねぇ、これ何?」
「あいのきゅーきゅーげき」
「……ほんと、セニアのことになると必死よね、誰かさん」
「あれで隠し通せてるから凄いよねー。セニアちゃんにだけだけど」

 まるで母親のように全員を見渡せる位置にいるアルマイアは、どうしてか他人の色恋沙汰の光景ばかり見せ付けられているような気がする。カヴァクとトリスだったり、ラウレルとセニアだったり。どうして自分に春がこないのだろうと、たまに嘆きたくもなる。とりあえず、今回はセニアの怪我が大事にならなかったから、よしとしよう。
 自分はあまり、戦闘に関して得意でもない。人の心の機微に対しても、得意でもない。単に金勘定が好きで、他の皆より料理が得意で、他の皆より少しだけ、ほんの少しだけ、世話を焼くのが好きなだけだ。だから、そんな自分にこんな甘酸っぱい光景ばかり見せ付けて、他の仲間たちは一体自分をどんな役割にしたいのかと思う。とても現実で実行できそうもないが、心中でだけ、ひっそりと全員の頭にメマーナイトを一撃叩き込んでおくことにしよう。

「あれ、誰かいるのー……ぬわぁっ!?」

 そんなことを思っているときに、ぬっと、人影が現れたのだ。
 咄嗟に、反射的に、お金の入ったズタ袋を振りかぶっていたとして、誰が彼女を責められよう。

「あ、ごっめーん。何か殴っちゃった」
「な、なんかで、その、レベルは、まずいと、思う、んだ……」
「ちょ、ちょっとカヴァク!?」

 アルマイアの一撃で地に倒れ付したカヴァクに、慌ててトリスが駆け寄った。怪我人一人追加ですか、と、こちらも何だか若干ため息がついてきそうな声を上げるイレンドに、アルマイアが乾いた笑いで謝罪した。おなか空いたから夜食食べにきただけなのに、とぐずるカヴァクを、よしよし痛かったねーとあやすトリス。傷が塞がったのか、先程のスカート切断について猛抗議を始めるセニアに、大怪我をしたことを心配している癖にそれを素直に言えずに猛反発を始めるラウレル。
 ああ、世の中って平和だ。滅びてしまえ。アルマイアはそう心中で残し、大きな欠伸を決め込んだ。

 様々な声色が、食堂に響く。
 その声の響きの根源は、つまるところ。

 皆の、笑顔だった。
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by akira_ikuya | 2010-02-20 19:21 | 二次創作


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